16.ハイカラさん

 いつも通り、先生が食べる金平糖を買いに和菓子屋に向かっていた。

今日は桃色に麻の葉柄の小振り袖(二尺袖)に、グラデーションがかかった紺色の袴、足下はブーツ。ハイカラさんコーデだ。


 私の和装もすっかり近所ではお馴染みになっていて、庭いじりが趣味のおばあさんから毎日可愛いわねぇ、と言われ、若い頃のもう着られない着物をもらったこともあった。



 家ではこんな風に好きなように着られない。先生は気がついていないようだけど、地元では有名な資産家の娘で、本当はアルバイトなんてしなくても良いほどに毎月の小遣いをもらっている。でも、家からもらったお金は使いたくなくて、自分で稼いでいる。


 ポリエステルの着物なんて、別邸に専用の箪笥を買っていなかったら見つかった瞬間に捨てられてしまう。


 金平糖を買いに行く和菓子屋は、実は親が決めた婚約者がいる場所でもあった。お互いに顔は知らなかったから、名前を聞かれたときは先生に告げた嘘の名を名乗ってしのげた。

親は今頃私が和菓子屋の若旦那と仲を深めていると思っている。そのためにこの町で働くことを決めていたのだから。



 偽りの名前に本当の姿、そのチグハグとした真実に今日も身を任せる。




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