14.夏祭り
「お待たせしました!」
「これは、朝顔が歩いているのかと思ったよ」
「そこは百合の花ではなくて?」
「もちろん、いつもそう思っているとも。でも、今日は朝顔の妖精なのだろう?」
「そ、そういうことにしておきます!」
正直、着替えてきた彼女は天使かと思った。いや、昼間に着ていた金魚柄の夏着物もとても似合っていたが、印象が打って変わって大人っぽくなった。
今更だが、僕はとても良い決断をしたらしかった。
引き出しから出せていない簪を除けば最高の日であった。
「先生、綿飴買ってもいいですか?」
「いいよ。ほら、行こうじゃないか」
境内にはかなりの人がいて、彼女は迷子防止に僕の浴衣の袖をつかんでいる。子どもっぽい要求に少し笑いながら屋台を目指すと、少しむくれた彼女がいた。
「笑わないでくださいよ! 自分だっていつも金平糖たくさん食べてるのに!」
「悪かった。ほら、そうしたら僕も一緒に食べよう」
彼女なりに色々気にするところがあるのだろうなと思いながら、屋台の親父に2つ注文した。
「た、食べましたね・・・・・・。もう少し緩く着付けて来るんでした」
「少し買いすぎてしまったね。僕も案外子どもらしいな」
綿飴を皮切りに、焼き鳥、焼きそば、お好み焼き、フランクフルトと食べ歩き、おやきを食べたところで力尽きた。途中で買ったラムネのせいもあるのだろうが、それにしても食べ過ぎた。
「先生はいつも子どもみたいじゃないですか」
「そうかい?」
「金平糖食べまくるところとか、ココア大好きなところとか、実はコーヒーにお砂糖たくさん入れているところとか」
成る程僕はそれなりに甘党らしい。甘党=子どもというのはいささか単純すぎはしないだろうか、とは思ったがこの際いいだろう。
「そういうところがいいなぁと思ってるんですけどね」
小さすぎて聞き逃したこの言葉はもう一生聞けないのだと、その時そんな予感がした。
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