⑦夏の形見
去年の夏、仕立てた浴衣と渡せなかった簪。
衣替えをしていたら出てきた浴衣には幸せな記憶が詰まっていた。引き出しにはあの日渡せなかった簪が入っている。白百合モチーフの簪だった。
夏の花で良いと思って偶然遭遇した蚤市で購入したものだった。白百合の花言葉は純潔。彼女に相応しいと思って手に取った。
花言葉も小説で良く使っていたために覚えてしまったものの一つだ。
簪を送るというのは「求婚」を意味していて、(いや、正しくは櫛なのだが)それなりに覚悟を決めて買ったものだった。値段の問題ではなく、意味が通じるかどうかという意味でもかなり決断するのに時間がかかったように思う。
回りくどいやり方をする僕はロマンチストだと仲間に言われたことがある。月を見ているときに相手の教養がある場合にのみ通じる告白をしたり、簪の意味を知っていて欲しいと願っていたり。
結局、出せずじまいで終わってしまったのだ。
あの時この簪を渡せていたら、あるいは。そう思ったのはもう何度目だろうか。
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