11.真夏の夜に

「先生、お誕生日おめでとうございます」


そう言って差し出されたのは、黒い包装紙に赤いリボンがついたプレゼントだった。そういえば誕生日だったなと思いつつ、礼を言って受け取った。


「開けてもいいかい?」


「ど、どうぞ」


 少し緊張した面持ちの彼女は面白かった。箱を開けると、そこには真新しい万年筆があった。そこそこしそうなものだが、いいのだろうか。


「ありがとう。これはいつものよりも軽いね、書きやすそうだ」


 そう言ってやれば、彼女はほっとした顔になった。万年筆は1000円のものからある。その中で買えそうで安っぽく見えないものを選んだのだろうと思う。


「よかったです」


その言葉にどれだけのことが含まれていたのかは知らないが、とても重みのある言い方だった。

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