⑤初夏に
去年の今頃、彼女は塗り絵にはまっていたなと本棚を見てふと思い出した。
あの後僕は102色の色鉛筆と彼女が持っていた塗り絵本を買って、彼女以上の塗り絵を披露したわけだが、彼女はもう既に少し塗り絵に飽き始めていた。
彼女がここを去って、僕の世界から色は完全になくなってしまったようで、それは心因性のものであると友人に無理矢理連れて行かれた精神科で言われた。
金平糖の味も味気なく感じていることや睡眠もあまり取れていないことも話すと、うつ病の検査をしようと言われて問診を受けた。重度のうつ病だと言われたとき、名前が付けられたこの状態に安心した自分がいたのを覚えている。
薬で眠るとあまり夢を見ずに眠れた。夢診断の本で調べれば悪夢や凶夢と言われていた夢を見ずに済むのはとてもありがたかった。とは言っても、本来ならば入院してほしいところだと言われていたのを拒んで帰ってきたのは良くなかったのかもしれない。
突発的に希死念慮が顔を見せるのだ。我が家には自殺ができる場所など数え切れないほどあるし、僕は広い家に1人で住んでいる。発見されずに死ぬことなど容易だろう。そんなことを考える自分がまた嫌になって死にたくなる。
万年筆は岩のように重くて、もう持ち上げることができなかった。
彼女に渡すはずだった簪ですら凶器にしてしまおうという自分が怖くて仕方がなかった。
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