6.文字の容姿
「先生の字、原稿の時ってすごく汚いですよね」
ちらりと見てしまった机の上の原稿用紙に書かれていた字はとても酷かった。意外にも、ネタをメモしている時の方が気を遣った文字をしている。
「僕の思考に追いつかないこの手を責めてくれ」
メモはメモでもネタが後で自分が読めなくなったら誰が読めると思っているんだ。やれやれという感じで言われたが、編集と校閲の人に謝るべきだと思う。
「『天才は字が汚い』と?」
こっちだってやれやれ感を出しながら言ってやるんだから。
「そういうことだよ」
「そういうことにしておきますね」
それからしばらくして先生の原稿の字が少しだけマシになっていたのを見たのは秘密だ。
実は先生のペンネームを知らないなと思ったのは随分後になってからだった。
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