2.和装美人
助手募集の張り紙をしたその翌日、それはただの紙切れに成り下がってしまった。
理由はただ一つ。助手が見つかったのだ。
今時には珍しい、和服の似合う黒髪の乙女だった。
彼女は小説家志望ではなかったが、服装のセンスと言葉選びが独特であった。もったいない。実に。
しかし、雇ってみればくるくると働き、使えなくなっていた執筆机も、万年筆のインク詰まりも解決していた。
なぜ助手を、と問えば、新しい桐箪笥を買う金がいるからだ。募集しておいて理由を聞くなんて。と答えた。
確かに募集をした僕は、それもそうかと思った。仮にも言葉を扱う者としてどうなのかと問われれば、彼女に押され気味であったことを認めざるを得ない(本当は秘かに弟子ができたら嬉しいなどと考えていた自分を殴りたくなった)。
こうして彼女は助手という名の家政婦になったのである。
彼女は愛猫のクロにどこか似ていた。決定的に違う点は、仕事の邪魔をしないところだ。
家の中をウロついて珍宝を見つけてきては持ってきて報告するところや、万年筆の音を子守歌に寝ているところはそっくりなのだが。
彼女の装いには少し変化が見られた。「大正」が詰まって取り残されたような我が家に合わせたのか、触発されたのか、大正浪漫な装いになってきた。
彼女の長身には合わないであろう身丈の着物を巧みに着こなしているそのセンスが好きだった。それを言ったことは一度もなかったが。
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