先生と私

フィーネ

1.金平糖の悪魔

万年筆で紙を引っかく音が、とても心地よく響く午後。


そのままフワフワと天に昇れそうな座り心地のソファーでそれを聴いていると、つい居眠りをしてしまう。

暖かく柔らかな窓越しの日差しがまた、私を夢の世界へと誘う。


カリカリという音がハタと途切れたと思うと、ガリボリという音に変わる。


先生の筆が進まなくなった時の癖だ。


器に盛られた(正確には私が盛った)小さな砂糖の宝石が、次々にその輝きと命を失っていく。

しかしそれもまた、適当ではなく、白・黄・緑・桃・橙の順に。せっかく淹れた茶も飲まず、食べ続け、噛み砕く命がなくなると私の方を見つめる。


この頃には、無粋とも言える音に呆れて私の愛おしい眠気もすっかり消えてしまう。日常茶飯事のこの時に備えは万全だ。いつもの様に新しい生け贄を器に盛る。


「何故白が多いのか。順に食べても白が余る」


執筆よりも心が向いた時に、この人はよくこう言う。が、私にはどうでも良い事なのだ。今日は一体あといくつの命が犠牲になるのだろう。


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