4.3歳④

 「おい魔抜け!今から魔法撃ってやるからかわしてみな!」


 「やっ、やめて?!」


 村の少年達はヨシュアに初級のファイアボールを唱えてそれをぶつけようとした。


 ヨシュアは泥まみれになりながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をあげて必死に辞めてもらうよう懇願した。


 しかし少年らはこれをやめる気配がしない、これからどうやってオモチャを遊んで、そして壊してやろうかといった様な顔だった。


 それに気づいたのかヨシュアの顔はより一層酷いものとなる。しかしその顔は“悲壮感”のあるものだった、まるでまだ助かる望みを捨ててないかといったようなものである。


 「喰らえ! ファイアボールッ!」


 少年のリーダー格の子が火球をヨシュアへ撃ち放った、ヨシュアはそれを避けようとも或いはそれにただ撃ち抜かれるのを待っているという様子ではなかった。


 「何やってるんだてめぇらわよ!?」


 ユーリーはそれをリジェクションした、魔法の壁で。


 ヨシュアを庇うように立ったユーリーは少年たちを追い払うためにあの技を使った。


 「お前らがこんな事をしているのをマリア姉ちゃんに言いつけるぞ!?」


 子供ならではのチクリである。それもただ大人へのチクリではここでは意味を成さない、大半の大人や村人はヨシュアの肩を持とうとしないからだ。


 ヨシュアの肩を持つのはオレ、お袋、姉さん、マイクおじさんそれにマリアちゃんしかいない。


 マリアちゃんのその今では明るく戻ったその姿は、俺は最近知りあいになったばかりだから昔がどんなのかは分からないが、とても男ウケのいい女になった。女受けも悪くないが、嫉妬でマリアちゃんを嫌う女もいる。


 そんなマリアちゃんと親しい俺が彼らの憧れである女性に自分たちの悪いところをチクられるといい心証を持たれない、しかしチクリという手は通用しなかった。


 「それならお前を喋れない様にするだけだ!」


 「そうだ!いつもマリアと仲良くしやがって!」


 「俺たちの命令は絶対だとふくじゅうさせてやる!」


 今度はコッチに攻撃をしてこようとしたその時、別の男の子が現れた。


 「おい、そいつらの相手してないで俺と遊びに行くぞ!」


 「え、でも……」


 「あんな奴らに関わる必要はない、それよりもっと楽しい遊びをした方がいい気分が味わえるだろ?」


 「ジャックがそういうのなら……」


 突如現れたジャックはその少年グループのガキ大将だ。


 しかし彼はヨシュアのイジメをいつもいいタイミングで邪魔して少年グループを連れて退散する。実はヨシュアたちのことを守っていた。


 「おい、大丈夫か? またやり返さなかったのか」


 俺はそう言ってヨシュアに手を伸ばした。


 ヨシュアはその手を掴んで、俺がそれを引っ張り上げた。


 彼は俺を見てニッコリと笑った。


 「ああ、大丈夫さ。君が助けてくれたからね」


 ヨシュアは服についた泥を手で払い落としながら言葉を続ける。


 「それに、やり返してもまた恨みを買うだろう?」


 「はぁ……そうか」


 ため息をついて何故お前はそんなにポジティブなのか理解出来ねぇよ的な顔をしていたら、何が言いたいのか分かったのか言葉を返してきた。


 「”僕は信じてるよ、いつかみんな【平等】になって、仲良く暮らせる世の中が必ず来ることを“」


 そう言って彼は遠くを見ていた。


 その顔はとても爽やかなもので、まるでその未来が訪れるのを知っている様なものだった。ヨシュアを自分の掌を見て、硬く握った。


 「だけど、まだ時は来ていないんだ。”約束の地“にすら僕はたどりついていない。ここへ来たのも偶然だ、仲間と逸れてしまってね」


 「仲間?」


 「ああ、同胞だよ。神より約束された土地を僕たちは目指している」


 約束の地?神より約束された?なんだそれ、なんか知ってるような知らないような……うーん……?


 まいっか!俺はヨシュアの言葉について考えるのをやめた。思い出せないなら、重要な記憶じゃないな!


 「同胞たちが僕を見つけてくれるまで、僕はもうしばらくこの村に滞在させてもらうよ。じゃっ」


 そうやってヨシュアは手をあげて去って行った。さっきまでいじめられた泣きべそかいていた奴に見えないくらい、爽やかなにスカしていきやがった。


 なんか顔がいいからか、地味に気品を感じてムカつく。あんな元気なら助けなきゃ良かったと俺もその場を去った。


***


 「ただいまー」


 俺はそう言って玄関を開けて我が家に入った。すると…


 「おかえりーっ!」


 姉貴がそう言って飛んできた、そして抱きついてきた。


 「お姉ちゃんおもい……」


 「いいこと?ジェントルマンたるものは決してレディーに重いだなんて言わないわよ、覚えて来なさい!」


 「分かったから離れて、あつい」


 「そんなこと言わずにさ〜……ん?」


 「どしたの?」


 急に押しだまった姉貴はクンクンと鼻を鳴らしはじめた。


 「女の匂いがする……」


 「それはマリアお姉ちゃんとお風呂入ったからかな?その時使ったシャンプーの匂いなんじゃない?」


 「マリアとお風呂?!ぐぬぬ……罰としてお姉ちゃんともお風呂入りなさい!」


 「え?なんでまた…」


 「あなたについたマリアの成分を私で上書きするためよ!さぁ、拒否権は無いわ」


 「ちょっ……」


 そう言われてズルズルと手を引っ張られて今日2回目のお風呂に入ることとなった。


 相変わらず年上の言うことには逆らえない俺だった。


 「ふぅ……」


 隣では姉貴が未だに抱きついてくる。ちょっと恥ずかしい……


 「ねぇ、お姉ちゃん」


 「はぅッ……今日もユーリーがかわいい…なに〜?どうしたの?」


 「こんなにくっ付かれると恥ずかしいんだけど……」


 そう言ってモゾモゾしている俺を見て姉貴はニヤニヤと笑っていた。


 「あらあら、ユーリーったらお姉ちゃんを相手に興奮しちゃったのかしら?もちろんお姉ちゃんとしては大歓迎だけど、それはもうちょっと大人になってから……」


 「……ぶくぶくぶく」


 「きゃー?!ユーリーったらのぼせちゃったの?!おかーさーん!?」


 裸で抱きつかれて興奮した俺は(気分的に)頭から蒸気が噴くほど顔が熱くなったのを感じて、なにやら口に水が流れ込んでくるのを感じながら意識を手放してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る