第十四層目 ダンジョンの差
四階層目に足を踏み入れた一輝は、一旦今の自分のステータスを見た。
名称:神園 一輝
種族:人間
職業:探索師見習い
年齢:17
健康状態:良好
体力:33(+1)
筋力:21
俊敏:30(+5)
頭脳:17(+3)
魔力:0
能力:『調理』『暴食の権能』『噛みつく』『音波』『解析』『みかわし』(New!)
あの後、道すがらにフロートアイを一匹とマーダードッグを二頭食べた結果だ。
マーダードッグから得られた能力は『みかわし』。発動している間、自分の動きが僅かに素早くなるというものだ。ただし、発動してから五秒の間だけだが。
しかし、僅かにとはいえ、突然素早さが変化するのはなかなかに驚異である。
野球やバスケ等ではチェンジオブペースというものがある。野球などでは速球と緩やかな球速の球を投げることで、バスケではドリブルの際に動きに緩急をつけることで、相手のペースを狂わせるものだ。
マーダードッグが獲物の背後をとるのも、これを使って一気に相手の感覚を狂わせ、背後をとっているのだという事がわかった。
さらに言えば、食べるモンスターの傾向で上昇する能力値にも変化があった。
俊敏性の高いマーダードッグはそのまま俊敏が。情報を武器とするフロートアイは頭脳が上昇した。
とは言え、俊敏は直接動きに関わってくるので解るのだが、頭脳が上がっても正直なところ一輝にはピンと来なかった。
だが、数値化が出来たことで改めて気づく。
『暴食の権能』は、反則級の能力であるということに。
「でも、やっぱりダンジョンでモンスターを食べるのはひやひやするなぁ……一度持ち帰ってから、干し肉とかの判りづらい加工品にしてみるか? でも、それを誤って他の人が食べたらまずいし……うーん……」
ひとまずその辺りは帰ってから考えようと、一輝は思考を切り替える。
ここは浅層とは言えダンジョンの中。少しの油断が命取りなのだ。
旧世田谷区サブ・ダンジョンの中でも、一番金策として良好な素材が取れるのが、この四階層にいる『エイリアンフィッシュ』という魚だ。
四階層目は大きな湖畔が広がる森のフロアであり、その大きな湖に生息しているのがエイリアンフィッシュである。
エイリアンフィッシュは体長2m~10mになる大型の魚系モンスターで、肺魚の一種だ。
肺魚とはエラを持って生まれたものの、成長の過程で段々と肺が発達し、成魚になる頃には肺呼吸をするようになる魚のことである。現存する肺魚は少なく、ネオケラトドゥス・フォルステリ (通称オーストラリアハイギョ)など計6種類の肺魚が生息して
だが、ダンジョン現界によって一変した世界では、エイリアンフィッシュの様に新たな生物として生まれてくるものもあった。
「えーっと……餌をつけて、竿を垂らしてっと……これで良いのかな?」
釣りなどしたことのない一輝は、本に書かれている内容をそのまま真似てみた。
エイリアンフィッシュの特徴であったり、倒し方は細かく書かれているものの、肝心の釣り方についてはえらく簡単に書かれている。
「まぁ仕方ない。このまま待ってみるか」
周りを見てみれば、他の探索師達も同じように釣りをしている。ただし、あまり近すぎるとお互いが邪魔をしてしまうので、適度な距離をとっている。
しばらくそのまま待っていた一輝であったが、一向に釣れる気配のない事に若干のイラつきを覚える。
(こんなに連れないなら、まだフロートアイとかマーダードッグを狩ってる方が稼ぎになるよな? 単価は安いけど)
一輝の考える通り、別に稼ごうと思えばフロートアイの大目玉やマーダードッグの牙と背骨も、良い買い取り素材となる。
ただ、エイリアンフィッシュは釣ればあとは動きの遅い魚を
「ふぁ~……こりゃダメだ。ちょっと出直そう。この階層だと……おっ、これとか良いんじゃないか?」
ガイドブックを捲る一輝の目に飛び込んできたのは、一羽のまだら模様の鳥であった。
『カミツキカササギ』。鳥のくせに、嘴にびっしりと牙を持つ獰猛な顔の鳥だ。
カササギは名前にサギとついてはいるが、実際は鷺の仲間ではなくカラス科の鳥である。脳が発達しており、鏡を見て自分なのか他の個体なのかを見分けられるかという実験、ミラーテストに合格した鳥でも有名だ。
モンスターとしてのカミツキカササギも同様に頭脳が高く、時には探索師が落としていった道具などを使う個体もいるという。
「更には、探索師の道具を勝手に盗っていくことから、『泥棒カササギ』とも呼ばれる、か。これがいるから、このダンジョンはマジックバッグが推奨されてるんだよなぁ。さて、でも鳥だったら調理も簡単そうだし、それに等級もD。今の俺でもいけるはず!」
そう思っていた時期が、一輝にもありました。
「キュッ! キュッ!」
「ピィッ! ピィッ!」
「うわあああああ!?」
次々と巻き起こる爆炎から、一輝はなんとか逃げ出していた。
カミツキカササギを探すこと十分。
森の木に止まっていたカササギを見つけた一輝は、狙いを定めてカササギに投げナイフを投擲した。
見事に命中し、カササギを回収した一輝であったが、仲間がやられた事で怒りに燃えたカミツキカササギが鳴き声をあげ、仲間が襲来。
その数、推定百羽以上。
しかも、そのどれもが足に何か丸くて黒い物体を握っていた。
何かまずい雰囲気を感じ取った一輝は、そのまま回れ右をして引き返す。
突如背後で起こった爆発の衝撃に吹き飛ばされた一輝は、無我夢中で逃走を始めたのであった。
そして、その逃走劇は他の探索師を巻き込んでしまい、四階層はちょっとした騒ぎになっていた。
「ちくしょう! この鳥野郎どもめ!」
「食らえ! バーストスラッシュ!」
「レイジングアロー!!」
次々とカササギに向かって放たれる探索師達の能力。
いくら爆撃が強力とは言え、結局はそこまで手榴弾の数があるわけでもなく、二十人程があつまった探索師によって壊滅させられたのであった。
「ふぅ、終わったか?」
「皆さん、大変申し訳ありませんでした!!」
なんとか切り抜けた面々に、一輝は深々と頭を下げる。
それを見た探索師たちはお互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
「ボウズ、このダンジョンは初めてか?」
「は、はい!」
「ならしゃあねえ。みんな同じ事やっちまうんだよ、ここは」
「そうそう。俺なんて、毒ナイフを持ったカササギに当たっちまってよう。ありゃマジで死ぬかと思ったぜ!」
そう言って笑い声をあげる探索師達。
一輝はそんな探索師達を見て、ポカーンと口を開ける。
「ん? あぁ、その様子だとボウズは旧墨田区から来たんか。そりゃあそんな顔にもなるわな」
「あそこは良い意味でも悪い意味でもドライだからなぁ。俺たちは長年この旧世田谷で潜ってる探索師さ」
「向こうじゃ考えられんだろ? でも、こっちでは俺たちは助け合いながら探索をしてるのさ」
「そうそう。だから、一番需要もあって、売り上げもいいエイリアンフィッシュを狙ってるわけだわ」
自分が通っていた旧墨田区では考えられない話だ。
自分が一番。それ以外は関係のない話だというのが、旧墨田区の探索師のスタイルだった。勿論、シルバーファングの様に個人的に気にかけてくれる者もいたが。
「つうわけで、あまりこの階層では無茶はすんなよ。あっ、なんだったらエイリアンフィッシュの釣り方も教えてやろうか?」
「え!? いいんですか?」
「新人に教えるのもベテランの仕事ってね。俺は正宗。旧世田谷で20年潜ってる探索師だ。よろしく」
「はい! よろしくお願いします!」
一輝の元気な返事に、日に焼けて真っ黒な顔がクシャッと笑みを浮かべた。
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