後編
第26話 海
インドア派の文芸部員も、潮風に誘われる。気がつけば、誰からともなく外へ飛び出していた。目指すは大海原。海賊王の気持がちょっぴりと理解できる。
開放的に広がる青空に、王国の一つでもあるのでは、と思わせる入道雲が浮かぶ。
海に引き寄せられる間隔。それは、引率者とて例外では無かった。
「水嶋。手が止まってるぞ。美女の背中にオイルが、塗れるなんて、こんな光栄な事はないのだからな」
「わかってますよ」
あくっちゃんに、覇気の無い愛想笑いで、応対をしながら、水嶋は遠く、キャピキャピと、はしゃぐ可憐な少女達に、目も心も奪われていた。
白い水着の、口の悪い小麦色の肌の少女が、ビーチボールを打ち上げる。
負けじと、空色の水着を身に纏った、ナイスバディなクルミが打ち返す。
灯里はフリル付きの黄色の水着。彼女は大口を叩きながらも、際どいあたりや、強い当たりは、全て美夏に任せて、右往左往している。
カナさんは桃色の水着。彼女のレシーブは、本人の予想とは異なる所へ飛んでいく。
「あくっちゃんは今回、大人しいね」
「あのね。女ってのは、ガッツかないのが魅力的なの。まぁ、お子ちゃまのアンタに、そんな事を言っても、仕方ない訳だけど。レディーは寝て待てって言うでしょ」
「……たぶん」
「アンタ、アタシには冷たいわよね」
「そんなことないですよ」
「ほら、柴田さんが呼んでるわよ」
「じゃ。俺は行きますんで。」
「白状ね」
「そんなこと無いですよ」
「柴田さんが、手を振ってますよ」
「じゃ、俺は行きますからね」
「白状ね」
「そんなこと無いですよ」と言いながら、俺はカナさんの元へ、花園へ、走り出す。
「はいはい」と背中で聞こえるが、水嶋は振り返る事もなく、突き進んでいた。
「カナさん、お呼びですか」
「さんはいらないわよ」
「急には無理ですよ。それで、俺はどっちのチームに、入れば良いですか?」
「勿論。美夏チームで。後は頼んだわよ。美夏」
名を呼ばれ、手を振る可憐な少女を、下から上へと嘗め回すように見てしまう。馬子にも衣装とはこのことなのか。
なぜ、俺はコイツを男と勘違いしていたのか、未だに理解しがたいが、理由があるとすれば……。
「なんだよ。ジロジロ見んなよ」
「オマエ、しゃべらん方がいいぞ」
ドつかれる。鋭い右ストレートが、わき腹を抉る。俺に見る目がなかったんじゃない。水嶋は苦しみながらも、納得のいく答えを確認できて、少し晴れやかだ。
「うっせぇー。んじゃ、行くぞ」
「へ、行くって?」
「ほら。シャツくらい着ろよ」
よくわからないのですが。説明を求めてカナさんに目で訴える。
塩対応。「じゃあ、頑張ってね」と、説明責任を放棄して、桃色の少女は水嶋を送り出す。
あれれ?ビーチボールは?俺の青春は?
美夏に手を引かれ、赤子のように連れていかれる。ドナドナどーなー。
「ねぇ、俺の青春はーーー!」
小さくなりゆく美少女たちを眺めながら、子羊は腕をがっしりと掴まれ、引きづられるようにして、連れていかれた。
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