第23話 バレとバレ
うら若き乙女。
気品に満ち、異国情緒あふれる令嬢のような出立ち。ミカと呼ばれる子が、前に部長が話したミカで間違いが無いのならば、辻褄が合わない。
口が悪く、頭も悪い。
到底そぐわないといった事実を目の当たりにして、水嶋は頭を抱えた。部長が嘘を付くとは到底おもえない。
「あのぉ。な、何か?」
「何処かでお会いしたこと、ありませんか?」
「おほほほ、そんな事は無いと思いますですよ」
赤茶けた短髪がすりガラスから差し込む光を蓄え、夏の太陽のように燃えて見えた。ふわっと潮風が肌をすぎると、パチリとしていた眼が細目に変わる。そして、フッと水嶋の鼻腔を柑橘系の香りが通り過ぎた。
「ラルク!」
躊躇無い一言に、ラルクはぴくんと体を反応させた。
「うぐっ」
図星を疲れたラルクがたじろぐ。と同時に水嶋もたじろぐ。ラルクが女であったと言う事実。自分の発した言葉より遅れて、脳内が整理を始める。
まさか一本の微炭酸、タイプガードを飲み合う友が女だったとは。たまに一つの筐体に座り顔を近づけ、熱弁を繰り広げた相手が女だったとは。
マスバーガーで抱きつき、勝手に飲み物を飲んでしまった。女だったとは。自分の犯した罪が、走馬灯のように蘇る。
「なんだよ。何で、バレんだよ!」
「ご機嫌麗しゅうなんて、今どき言いませんよ」
柴田がクスッと笑い、美夏に落ち度を付けた。
「そうだよ、ラルクだよ。オレは、大沢美夏はラルクだよ!」
ラルクは麦わら帽子をパスンと床に投げ捨て、顔を伏せると、一瞬の静寂ののち……壊れた。
「クククッ、くはッ。ハハハッ!」
ガニ股で嘲笑う姿は、紛れもなく水嶋の知りうるラルクそのものだった。すかさず柴田に駆け寄るラルク。柴田のメガネを奪い取り。重い前髪を押しやる。
「どうだ、アルエ!」
水嶋は名を呼ばれ我に帰る。わなわなと体を震わす。
細めがちの目が怒りでカッと見開くと、それは前にお目にかかりし、麗しの姫君。なぜ貴方が此処に。なんて無粋な言い訳は出来ない。むしろ、あれだけ時間を共有していて、気づかなかったことが恥ずかしい。自分は女性を見る目がないのだろうか?
あの日、告白まがいに可愛いと告げてしまったこと、部長はミカエルは覚えているのだろうか?思考回路は何も纏まらないまま、夏の暑さに頭はやられ、水嶋はとうとう、ショートした。
「センパイ、センパイ大丈夫ですか」
ゆさゆさと体を揺する灯里の声が遠のいていく。
柴田部長とラルクは口喧嘩を始め、クルミは腹を抱えて笑っていた。
「茶番ね」
あくっちゃんの興の冷めた一言が、水嶋の耳を通り過ぎた。収集がつかないとは、まさにこの事だった。
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