第17話 気になる部長

 睡魔との闘いに何とか勝利した水嶋に、ファンファーレのように聞き慣れたチャイムの音が、授業の終わりを知らせる。


 鳴り終わると同時に、教師の退出も待たずして、見慣れた顔がガラリとドアを開けた。


 クラスメイトは同じ学年ではない事を肌で感じ、ザワザワと話し合っている。


「水嶋君、私と付き合って下さい」

 眠気も吹き飛ぶ瞬間だった。

 教室中が騒めきを越して沸く。


「柴田部長……」

 手を掴まれ教室を後にする。

 水嶋の背中からは「おぉ」と戸惑い混じりの感嘆な声が聞こえた。悪い気はしなかった。


 急足で階段を降る。チャイムが鳴って間もない、まだ人気の無い昇降口。

 水嶋は急かされるままに靴を履き、手を引かれ校門まで走る。


「柴田部長……?」

 期待を込めた疑問系が無意識に溢れる。

 胸の鼓動は早鐘を打ち、これが単純に、運動によるものなのか、噂で聞くトキメキという不可解なものによるものなのかは、ハッキリと分からなかった。


「ステップアップです。今からゲーセンに行きますよ。付き合って下さい。」

「あぁ、ゲーセンですか。それならそうと……何でそんなに急いで」


 少し期待していた自分が恥ずかしくなる。冷静に考えれば、そんな事は無い。事も無い?


 ……いや、有り得ないか。


「水嶋君、音ゲーには大切な三つの要素があります。押す力、対応力、認識力。この三本柱を鍛える事が重要なんです。」


 柴田は水嶋の問いに一切答えず、それでも話には熱が籠る。柴田は無意識に手を繋いでいるようだった。


「押す力とは、タイミングよくボタンを押す事の出来る能力です。水嶋君はでその力を養い、とりあえず理解して頂きました。」


 歩くスピードが上がる。


「次は対応力です。同じ曲でも、毎回、同じ様にはいなかいもの。失敗を引きづらずに直様に復帰するのも能力の一つです。」


 握る手に力が入る。無意識に目が合う。柴田の顔がゆっくりと朱に染まっていく。柴田は握る手をパッを離し、顔を伏せた。


 水嶋はというと安堵していた。彼女の熱弁を目の当たりにし、冷たくされていたと勘違いしていた事に、気づいたからだ。

 その後、「付き合って下さい」を勘違いしたことも沸々と沸き上がり、苦悶の表情が滲み出る。


 自分を思ってくれている人がいる温かみと、思ってくれている人が自分の思い以上では無いという現実。

 複雑に絡まる心境に水嶋は笑って見せた。柴田も難色を示すも、ほんのりと笑って返してくれた。


「たぶん、今日はあの子は委員会ないから、あそこにいると思います。対応力なら私より彼女の方が適任です。話は通してありますから」


「そういえば、前々から聞こうと思ってたんですけど、柴田部長って音ゲー詳しいじゃないですか。ゲーセンのランキングとかに入ってそうですよね。プレイヤーネームとかあるんですか?」


「はい、私はミカ……」

「ミカ?」


「私は美夏みかちゃんに教わってて、同級生だけど、とても上手なの。口は悪いし頭も悪いけど、良い子なんですよ。同じ文芸部ですし、水嶋君も良いお友達になれますよ。きっと」


 美夏と言われた音ゲー大好き女子が誰かは知らないが、少しだけその子が哀れに思えてきた。口が悪くて頭も悪い。酷い言われようだ。

 良い子とも言われているが、灯里みたいな子なのだろうか?先輩で性格だと、友達になれるか自信はない。


「さ、さぁ、着きましたよ。」


 こんな、町外れにゲーセンがあったなんて!


「わ、私は用事を残しているので帰りますが、水嶋君は頑張って下さいね。ミカエルを倒すのを楽しみにしていますから」


 そう告げると、部長はそそくさと帰ってしまった。せめて紹介くらいはしてくれれば良いのに。この何とも言えない距離感が歯痒い。



 探し人は直様に分かった。ダンスクやっている女子。それだけでも分かりやすいのに、ずば抜けて上手いが加われば、間違いなくこの人だ。


「あ、あのー、すいません。水嶋です。柴田部長の紹介で……」

「ちょっと待っててね。もうちょいで終わるから」


 振り向く彼女。見知った顔に水嶋は驚いた。

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