第13話 交換条件
柏倉はイヤホンのついたタブレットパットを大事そうに抱えている。
「先ほどプレイしてたのテクですよね。私が貴方の得点を超えたら、そのタブレットパットを貸してくださいませんか。それとも、私と勉強に明け暮れます?」
「実力行使ですか。構いませんよ。でも、そう簡単に私の得点は超えられないと思いますけどね。センパイ」
柏倉はイヤホンを外し、9.7インチのタッチパネル搭載液晶モニターを柴田に渡した。
「水嶋君、今後の為です。私の後ろに。私のプレーを見て頂ければ、混フレがなんなのか分かるはずです」
「わ、分かりました。ところで、テクって何ですか?」
「ハッ。テクも知らないの」
柏倉の馬鹿にしたような視線を遮るように、柴田が割って入る。
「テクとはこの音ゲー、テクニカルDJの略です。マイナーですし、まだ音ゲーを始めたばかりの水嶋君が知らないのも当然です」
「まいなぁ……」
ふるふると体を震わす柏倉は、頭から湯気でも出すかの様に顔を赤らめて、鬼の形相で柴田に睨みを効かせている。
「センパイ。そこまで言うからには高難易度で挑んで下さいよ」
「分かっています。大差で勝たなけるば、イチャモンでもつけられそうですから」
柴田は、そう言うと、画面に目線を向け、曲の選択を始める。
「あまり得点の高さに驚いたかしら。今さら誤っても許しませんけど。ぷぷぷ」
そんな柏倉の声に、柴田の返事はなく、唐突に曲が流れ出す。
聞こえて来るのはアジアンテイストの民族風ユーロビート。尺八のような木管楽器の音色が主旋律を奏でる。
草原や山岳地帯を背景に、民族衣装を纏ったキャラが佇む。幽玄な映像をバックに赤紫や黄緑の丸いノーツが現れる。
プレイ画面は上下半分に区切られていて、左上から右へ流れるタイムバーと、右下から左に流れるタイムバーが交互に入れ替わる。
そして、ライン上に待ち構えているノーツがタイムバーに触れた時に、タイミングよくノーツに触れると、高得点が入る仕組みのようだ。
ジュークボックスもそうだか、モニターをそのままタッチする、直感的なプレイを作り出している。柴田はマイナーと言っていたが間違いなく万人受けしそうなゲーム設計だ。
柴田の細長い指先が赤紫のノーツを弾き、軽やかに黄緑のノーツをスライドする。ピアノを演奏するかのように指が踊る。
「やはり、画面が小さいと実際、筐体でやるよりやり易いですね」
そういって、柴田は画面に映る得点を柏倉に提示した。
ガックシとうな垂れる彼女に、そつなくプリントを手渡す柴田。
「宿題が終わったら視聴覚室へ足を運んで下さい。それまで、タブレットは借りておきます。では、水嶋君。行きましょう」
「あっ、はい」
毅然と歩く柴田の背中に、水嶋は頼もしくも、おどろおどろしさを感じていた。
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