ようこそ、テクの世界へ
第11話 保険室登校
「イチチッ」
短距離走でド派手に転倒する水嶋。粉塵のように砂煙が舞い上がるも、近くを走る生徒は振り向きさえするも手を貸す者はいなかった。
体育教師の心配をよそに、水嶋は一人、足を引きづり歩く。
五限目。仰々しい程に騒がしかった校庭とは打って変わり、校内はしんと静まり返っていた。伽藍堂とした職員室を横目に、水嶋は保険室へと向かう。
トントンッ。
ドアを叩くも返答がない。
半開きのドアに体を這わせる様にして、保健室へと体を捻じ込ませる。
開け放たれた窓からは、午後特有の眠気を誘う陽香が入り込み、レースカーテンがハタハタと揺れている。
「先生〜。ちょっと拭くものある?お水、溢しちゃったぁ」
締め切られていたベージュのカーテンが、ゆっくりと開け放たれ、ベッドの上に座っていた少女が顔を出す。
水嶋と目が合う。
黒髪を黄色のシュシュで纏めたツインテールの少女。彼女の幼なげな顔が、水嶋を一直線に見据えている。
イヤホンのコードが彼女の両耳から垂れ、胸元あたりで交差する。
水に濡れた白いブラウスから、薄っすらと浮かび上がる淡い黄色の下着に水嶋の視線は吸い寄せられた。
「ひゃ、どこ見てるの!」
「何処も、見てねぇーよ」
水嶋の視線に感づいた少女は、胸元を腕で隠しながら、目の前の変態に罵詈雑言を浴びせた。
「もう最悪。最低、変態、スケベ」
ガラガラッとドアがゆっくりと開き、白衣を羽織ったタイトスカートの教員が入って来た。
「あぁ、五月蝿いな。頭に響く。って、柏倉、テメェーなんでアタシの天然水、勝手に飲んでくれてんだ、このボケ!」
柏倉と言われた少女は、女性教員にグリグリと頭を小突かれ、「痛い、痛い」と喚き散らす。先程の羞恥を忘れている様子であった。
突如の助け舟に水嶋は肩を撫で下ろすも、視線は二人のコントから離れない。
すると、不意に視線を疎ましく思ったのか、女性教員の視線が水島に移った。
「あー、で、君は誰?」
「二年の水嶋です。血が出てるので、絆創膏が欲しいのですが……」
「おー、マトモな病人だね」
「ケガ人ですよ」
「先生、二日酔いですか?」
「わかっちゃうかぁ。昨日、合コン行ったらさ記憶なくしちゃってさぁ。」
本当に教員なのだろうか?
水嶋は怪訝そうな顔で見据える。
水嶋の疑問をくみ取ったのか弁明に入る。
「あー、あとアタシは先生じゃないぞ。保健師な、保健師の阿久津。あくっちゃんと呼んでくれ。くれぐれも下の名前で呼ばないように」
「うめちゃん」
阿久津は柏倉に果敢に飛び込み、虎がじゃれつくように、ベットでマウントをとっている。水嶋は無防備な二人の太腿に目を奪われながらも、ケガで滴っていた血液が時間の経過により固まったのを察知して、保健室を後にしようと考えた。
阿久津は、立ち去ろうとする水嶋のネクタイを強引に鷲掴み、顔を引き寄せると、獲物を物色するように覗き込む。
「消毒はしないとだぞ。少年」
香水の甘ったるい匂い。舌なめずりする淫靡な音に加え、吐息が首筋にかかり水嶋は硬直した。
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