第8話 特訓

「この筐体にはローカルマッチモードが備わっていて、ちょうど、このゲーセンには二台あるわけだ。」


 薄暗いゲーセン。艶やかに発光するスタイリッシュな筐体。順番待ちする二人。

 昨日の事など気にする素振りも見せず、ラルクは熱弁を始める。


 どうやら、水嶋が今までやってたのは、オンラインモードで、ラルクの説明によると、ローカルマッチモードと言う特別なモードがあるらしい。


 ラルクは順番が回って来る前に、色々と話したかったみたいだったが、思いのほかに順番は早く回ってきた。


「ローカルマッチは、スコアを争う時にも使われるが、まぁ、物は試しだ。やっちまう方が理解しやすい」


 ラルクに言われるがままに百円玉を投入。今までは気にも留めてなかったが、確かに、右側にローカルマッチの選択肢が存在している。


 選択して水嶋は驚く。

 まだ、解放できていない曲、ユーロビートの足速なメロディーが流れ始めた。


 訳もわからず指を動かす。勿論、解放出来て無い曲だ。難易度が高い。初見でクリア出来る訳が無い。結果はDランク。赤文字で失敗の表記。


 ところが、終わらない。

 次の曲が選択出来る。

 失敗すれば二曲目だろうと弾かれる設定のハズなのに、筐体は次の曲を選べと迫る。


 ラルクは、驚く水嶋をニタニタと笑いながら眺める。


「後はやりたいのやって良いぞ。難しいのでも、ほとんど俺はクリア出来るから安心しろ」


 どうやら、ローカルマッチは、どちらかがクリア出来ていれば先に進める仕様となっているようだ。


 ならばと、今までクリア出来なかった難題に果敢にチャレンジする。



 激しいギターのイントロと共に、タイミングを知らせる水面をモチーフとしたノーツが、一斉に浮かび上がる。


 水面が競り上がり、水嶋は、ここぞというタイミングで指で弾く。


 輝く多数のノーツが、更に不規則に浮かび上がり、水嶋は、目で追いながらも、ボタンを押す優先順位がつけられず、指を乱打させる。必死について行こうという姿勢は見せるものの、結果に結びつかない。


 イントロが終わると小休憩。

 気だるく歌う女性のハスキーボイスと共に流れるAメロ。

 規則正しいノーツの発光に、水嶋は落ち着いてタイミングを合わせる。


その後も、サビの激しいノーツの流星群に翻弄され、コテンパンに打ちのめされる。


「なるほど、凛花りんかだな。確かに最初はこの曲でつまづくわな。でも、ここで根を上げたら、まだ先は長いぜ」

「うるせい。分かってるわ。ラルク、もう一度並ぶぞ」


「言いかた!」

「もう一度やりたいので、一緒に並んで下さい」

「うむ、よろしい」


 その後も、ラルクの特訓は二週に渡り続き、かなりの成果を挙げた。しかし、順風満帆とはいかず、水島は最大級の問題に直面する。その問題により、特訓の中断が余儀なくされた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る