ようこそ、ジュークボックスの世界へ
第6話 お近づき
今日も、ルービックキューブに似たスタイリッシュな筐体は、
水嶋は努力の甲斐もあって、レベル5くらいなら、なんとかクリア出来るまではになっていた。
昨日の美少女が自分の隣でプレーしたら、もし自分に声をかけ、同じ学校をいい事に、お近づきになれたなら。叶わぬ淡い願望が脳裏をよぎる。
水嶋の下卑たる思いは精神力を欠き、指の動きを鈍らせる。
筐体の画面に、赤文字で表示される失敗の文字。まだ、二曲しかプレイしていないのに、三曲目にいかずして筐体に弾かれる。
「一曲、損したな」
ラルクの顔。水嶋は気まずそうに顔を伏せた。そんな、水嶋の気持ちをよそに、ラルクは気にせず追い討ちをかける。
「ったく!何で、こんな所にいるんだよ」
「いや、今来たばっかで」
結局、今日も水嶋から出る言葉は安っぽい嘘だった。
「まぁ良いや。格ゲーやろうぜ」
コイツは良い奴だ。余計な詮索はしないし、サバサバとしているが、情はある。
ラルクは、一瞬だけ顔を曇らせはしたものの、昨日の事を気にする素振りを隠し、水嶋に明るく声を掛けてくれた。
活気の薄れた店内。格ゲーエリア。
今日も筐体達はプレイヤーを待ち侘び、虚しくも発光をしている。
「あーあ。やっぱ、クソゲーだな」
ラルクのいつもと変わりない接し方に安堵し、昨日は手につかなかった格ゲーにも、それなりに集中できていた。気づけば、昨日のモヤモヤは薄れていた。
すると今度は、水嶋の内から罪悪感が沸き立つ。水嶋は、謝りたい一心で、近くの自販機で微炭酸のタイプガードを二つ購入。ラルクの筐体の上に一つ置いた。そして、隣の筐体の椅子を引き寄せ、ラルクの隣に座った。
「昨日は本当に申し訳ない。実は……」
水嶋は意を決した。ラルクになら話しても良いと思った。それ以前に、このまま、ぎこちないままでいるのは嫌だった。
昨日の出来事と、自分の気持ちを洗いざらい吐いた。笑われても良い。覚悟していた。
「ミカエル」
「はい?」
「そいつは音ゲー世界ランカーを目指す、ミカエルだ。もっと知りテェーか?」
忽然と言い放たれるプレイヤーネーム。瞬時に昨日の美少女だと認識した水嶋は、うんうんと首を縦に振る。
「マスバーガー」
ラルクの交渉が始まる。水嶋も背に腹はかえられない。
「分かった」
水嶋の反応を見て、ラルクは再度、条件を競り上げる。
「イカポテ、ドリンクセット付き」
恋は盲目だ。ここで、ノーとは言えない。
足元、見やがって。そう思いながらも、いつもと変わらぬラルクの対応に、水嶋はホッとする。
「あぁ〜、分かったよ。教えてくれ」
「ヨシ、交渉成立だ」
両手を上げ敗北を認めた水嶋を見て、ラルクはパチっと指を鳴らし無邪気に笑った。
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