第5話 これって恋?

 今日、稼働した台なのに、レベル10、最高ランクを難なくクリアしている。

 その指捌きは目で追えるものではない。それだけでも衝撃なのに、プレイヤーは水嶋と、同じ中学の制服を着ていた。


 腕まくりされた白いブラウスからは、白く透き通った腕が伸びる。

 ウェーブのかかった背中まである長い黒髪が無秩序に揺れ、重めの前髪をパンダのヘアピンで片方へ押しやり、おでこは露わになっていた。

 その下にはパッチリした丸い目と、ビューラーで持ち上げられたように整った睫毛。


 薄暗がりの店内。ジュークボックスの雅な発光が、キラキラと輝く彼女の顔を、より輝かせ、スラリと伸びる白色の脚を妖艶に映し出す。

 タイミングを取るために体を上下に揺するり、短い制服スカートが揺れていた。


 たかだか五分程度の時間が長く感じる。水嶋は彼女に魅せられ、彼女の神業的なプレーに魅せられていた。


 口をポカンと開け、食い入る様に見る水嶋。オーディエンスの熱量が上がる度に、水嶋の鼓動は早鐘を打つ。


 湧き上がる何とも言えない気持ちの昂ぶり。カッコ良い、美しい、可愛い。そんな言葉を詰め合わせた物を彼女は水嶋に見せつけた。そして、終わると興が覚めたかのように踵を返し、忽然と姿を消した。



 水嶋は夢見心地。帰ってから飯を食い、風呂に入り、ニ階に上がり自室の家庭用ゲーム機のスイッチを入れる。毎日欠かせない日課のような行動に、体は考えるより先に動く。


 ガラルギアを起動し、対人を待つ。

 薄っすらとラルクの顔を思い出すが、すぐに音ゲーの美少女が頭を埋め尽くす。


 スマホの着信。


「はい、もしもし」

 水嶋の間の抜けた声。

「もしもし、じゃねーよ!いつになったら対戦すんだよ」


 ラルクの罵声に我に帰る。

 画面はキャラクター選択のまま、早く選べとばかりに和服の男性がふよふよと動いている。


 気づけば、あの時から彼女の事が頭を占領し離れなくなっていた。


「わりぃー。今日は無理だわ」

「じゃあ、何でゲーム起動してんだよ」


 ラルクの険しい顔が脳裏に浮かぶ。


「しゃあねーだろ!宿題やるの忘れてたんだよ」


 苦し紛れの言い訳。自分勝手な逆ギレ。

 情け無い、すまないと思いながらも、出てくる言葉は味気ない。


「わぁーたよ。じゃあな!」


 ラルクがブツリと電話を切る。

 やっちまった。

 後悔が後先から溢れ出てくる。


 水嶋はベッドに潜り込み、顔を枕に埋めた。

 すまないと思いながらも、最後に溢れ出てくるのは、後悔ではない。あのときの彼女の生き生きとした顔だった。


「あぁー、もう、何なんだよ」


 水嶋は、なんだか分からないものが、頭を侵食する感覚に恐怖し、その感覚は、モヤモヤを残しながらも、何処か温かみを感じ取る。


 たぶん、コレは思春期ならではのアレだ。


 喉の奥から出かけた答えを飲み込む。でも、何で俺が二次元以外の女性なんかに。


「あぁー、もう、わっかんねーな。はぁ、とりあえず寝よ。明日、ラルクに謝らないとな」


その後、水嶋が寝入ることが出来たのは、深夜を過ぎての事だった。

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