第4話 プレイヤーネーム
ラルク。勿論、本名ではない。格ゲー仲間がラルクと呼んでいたので水嶋も便乗して呼んでいた。年齢も同じくらいだと思うが明らかになってはいない。というより詮索をしない。
これは互いの為、暗黙のルール。
ラルクは女の子みたいな華奢な体だ。無骨に擦り切れた濃紺のデニムと、黒いバンドTシャツで、ビジュアル系バンドを意識しているのが見るからにわかる。ぶっきらぼうな喋り方が特徴的で、口癖はクソゲー。
ラルクはいつも戦いに敗れると、クソゲーと筐体を罵り、何処かへ消えて行く。ただ今日はヤケに食いついてきた。
「新しい音ゲーやったか?」
「ジュークボックスだっけ、なかなか良かったけど、コスパ悪くない?」
「だよな、アルエもそう思うだろ」
アルエとは水嶋のプレイヤーネーム。格ゲー仲間の間では良くそう呼ばれている。ラルクにアルエ、互いに素性の知らない者同士だが、それなりに馬が合う。
「やっぱり、コスパ考えたら格ゲーだよな」
「あぁ、間違い無いね」
水嶋はガラルギアの筐体に向き直り、コンピュータ相手に無双を始めていた。ラルクは人がいない事を良い事に、隣の格ゲーの椅子を持ち出し、水嶋の隣に座る。
二人の会話は、コンボがどうだの、フレームはいくつでと一般人には到底理解出来ない魔法の呪文の様な言葉で綴られる。
ラルクは先程までクソゲーと言ってたゲームを熱く語り出し、水嶋も、それなりに熱い返答をした。水嶋はゲームにしながらに異変に気付く。ラルクの熱量が上がり、気づけば鼻息が顔に掛かるほど目の前に体を乗り出していた。
「近い!近いって」
水嶋の一言にハッと我に帰るラルク。流石に恥ずかしそうに顔を赤らめ視界を泳がす。
「あー、すまん。アルエは今日も夜はガルギアのオンラインやるのか?」
「他にやる事ないからね。結局、ゲーセンより家庭用の方が対人戦が出来るんだよな」
「確かに。じゃあ、また夜に」
そう告げると、ラルクは恥ずかしそうに、そそくさと逃げるように去っていった。
その後は対戦相手が見つからず、水嶋も席を立った。都内でない限り、大型のゲーセンでも収穫が無いことはザラだ。今日が平日と言うこともあり、待っていてもあまり期待出来そうにない。
一人くらいはと思っていたが、
まさか、これが原因だったとは。
格ゲーエリアを離れ、帰り際、水嶋の目に飛び込んできたのは、ジュークボックスの周りの人だかり。
新台稼働にしても平日の夕刻、人が多過ぎる。有象無象をかき分け、プレイヤーに目を向ける。
「あれ、今日稼働した台だよな」
水嶋は余りの衝撃に声が漏れた。
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