第3話 コスパ重視

 エレキギターの軽快かつ綺麗な音色が鳴り出す。液晶には夜の星々と天体望遠鏡が曲のイメージを膨らます。水面が競り上がるように演出しタイミングを知らせるオレンジ色のノーツ。

 シンプルだが無駄の無い演出がインテリジェンスな風格を作る。


 一言で言うならば、お洒落だ。


 聞き覚えのある曲でタイミングが計りやすく、点数を伸ばして行く。ボタンを弾く指はぎこちないながらも演奏しているかの錯覚に、水嶋は酔しれた。


 向けられた視線も何のその。少し緊張こそすれど物怖じはせずに、必死に指を動かす。


「クリア」


 液晶画面には「C」の文字。どうやら、クリアランクがあるらしい。

 一曲目はCランク。たしか前の人はDランクで失敗だったから、ギリギリ合格ラインを通過したようだ。


 その後、二曲目も何とかクリアする。三曲目でラスト。最後は難易度の高い曲に挑戦。一曲目、二曲目とレベル3だったから、レベル5の曲を選択。


 2個同時押しのタイミングのノーツが複数登場。左右の手を統括できずミスが続く。タイミングも取り辛く点数が伸び悩む。後半は殆ど弄ばれるように手をがむしゃらに動かした。


 結果は勿論、失敗。

 後人から弾かれる様にして筐体を後にする。


 面白いけど三曲で百円か。コスパ悪いな。


 それが水嶋のジュークボックスに対しての最初の評価だった。水嶋は踵を返し、店の奥を目指す。


 バンマニの無骨な音楽を過ぎ、鉄人太鼓の和でポップな筐体を抜ける。ダンスクで汗を流す中年男性を横目に我が花園へ。


 そこには、家庭用ゲームの発展に伴って、落ちぶれていった世界。家庭用ゲーム機に駆逐されたエリア。格闘ゲームの筐体が悲しく光る伽藍堂のエリア。

 水嶋はガラルギアの筐体に腰を落ち着けると、百円を投入する。


 野太い男性の声で始まるアーケードモード。


「今日は乱入があるのかね?」


 水嶋は呟きが、ジュークボックスと異なる活気のない格ゲーエリアに落ちる。会社帰りのタイミングで一人いれば良い方だろうなと、水嶋の期待は薄い。


 そんな、水嶋の意見とは裏腹に二十分後に乱入が来る。期待薄だった水嶋の心が高鳴る。指の関節をストレッチ。気合いを入れる。


 水嶋の操るキャラは青い和服の男性キャラ。相対するは、赤髪の筋骨隆々とした大剣を持った男性キャラ。


 対戦開始。相手は炎を繰り出しながら、殆ど読み合いを放棄して大技を繰り出す。


(あぁ、あいつ、来てたのか)


 対戦開始後、ものの数分で対戦相手が判明する。そうなれば、変な遠慮はいらない。


 大技をスカらせ、隙だらけ状態の相手に対し、これ見よがしにコンボを決めていく。倒れた後も和服の男性は武器の扇子から蝶を出し、羽ばたかせて起き攻めに転じると、さっきまで軽快に動いてた赤髪のキャラは防戦一方に、攻撃を封じられる。


 その後も和服は下蹴りからコンボを繋ぎ、最後は大技を決めKO勝ち。


「これは、クソゲーだな」

「やっぱり、ラルクか。来てたなら声かけろよ」


 反対側の筐体から苛立ちを隠せずに顔を覗かせる見覚えのある顔。そいつはラルクと呼ばれる水嶋の格ゲー仲間だった。




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