第9話 公演後
何回もライブを経験したメンバーは慣れた声慣れたダンスを披露しそれは終演まで続いた。そしてその後の特典会も慣れた空気が漂う。
和久井が特典会の様子を見ることは珍しい。物品販売の席にいることはさらに珍しい。そこには見慣れない商品が置いてあった。説明するポップには太字のマジックペンでこう書かれてあった。
「とあるメンバーが膨らませた風船。1個500円」
この風船は目立っていたが売れ行きはそうでもない。というのも本当にメンバーが膨らませたかどうかファンは疑っていたからだ。そのため特典会にてこの話題を聞きに行ったファンもいる。しかし彼女たちは今初めて聞いたので驚いた表情をした。そして次に大方こう口にした。
「わたしじゃないよ」
ファンたちは真相を知るべく和久井に直接聞いた。というのも本当はこのオッサンが膨らませたのかもしれないという疑念が残っていたからだ。慎重なファンだけだったのか全ての風船は膨らんだままだ。
ピキーン!
「嫌な予感」
悪寒が牧瀬に訪れたのはちょうどその頃だった。普段なら人の多い時間帯には6階に上がらないけれどこのときばかりは覗いてみたくなった。いや牧瀬は覗かなければならないと強く感じていた。
6階に来るとなにやら騒がしい。風船が好調に売れていく様子を牧瀬は見た。そして周りには風船を持っている人も見た。そしてファンの一人は牧瀬がいるのを見つけるとこう呼びかけた。
「風船、ありがとー」
そう言うと風船の結び目をほどき口を付けていた。硬直した間が少しあって牧瀬は何事か気づくと、和久井とその周りで風船を持っているかたまりに近づいていった。
「何してるんですか!!」
険しい顔でその一人の後頭部をスリッパではたいた。すると風船はどこかへ飛んでいった。購入者は順にはたかれついでに和久井もはたかれた。彼はこう弁明する。
「いやあ、君のファンってどのくらいいるのかなと思って」
この一件は牧瀬の心と掲示板をざわつかせた。
あたしっすすか 一色梅花 @isshikibaika
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