第5話 ナマイキッ
「牧瀬ぇ、ちゃんと吹けよー」
尾崎が八つ当たりの言葉でぼやく。牧瀬は理不尽なこの男に冷ややかな視線を遥か遠くから送った。テーブル席の真前で腹這いになって倒れたので静川が近寄りこの男に声をかける。
「大丈夫ですか、何かありましたか?」
店員の息を摂取しようとしたとは到底言えずその場凌ぎの声を発する。
「いや、、ちょっと、、」
対面してすぐに尾崎に怪しさを覚えたのは当然のこと。ふとカウンターの方へ目を向けると床に投げ捨てたようにカバンが落ちていたので彼のものだと直感して拾いに向かう。カバンを掲げると牧瀬が声をかける。
「静川さん、これあの人の忘れ物です」
シャボン玉液の入ったボトルだった。静川はストローを咥えたまま倒れた姿を見ていたので色々と理解した。今度は問い詰めるように尾崎に話しかける。尾崎もカバンに近寄ってきたところだ。
「これはどういうこと?何をしていたの?」
落ち着かない眼球で考えぬいた末になんとか言い訳をする。
「こ、呼気検診だよ!息で健康状態が分かるんだよ!」
「どうやって?」
「吸ってだよ!」
「シャボン玉をか!?」
「当たり前だろ。他にどうするんだよ」
「それはおかしいよ、君。わざわざシャボン玉だなんて。ビニール袋使えばいいじゃないか」
「お、お前賢いな!次からそうするよ。買ってくる」
去ろうとして背を向ける尾崎の後ろ襟を掴む。
「いや、そういうことじゃなくて、店員が嫌がっているんだからやめなさいよ!」
「分かったよ、悪かったな。牧瀬ぇ」
「・・・というわけなんですよ」
と静川は和久井に話をこう締めくくる。和久井はこの事件を『とてもおもしろい』と感じていた。
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