第3話 ひとつ床の下

 5階のカフェにはアイドルのファンがよく通う。ライブ前にもライブ後にも。このカフェというよりこの建物のオーナーは消沈気味のこの和久井である。彼はもともと資産家としての顔の方が有名である。


「まあ確かに彼女たちも成長してくれて収益が上がるのはうれしいのだが、やってることは毎年変わってないんだよ」

「それでも喜べるのでしょうね。ファンがあってのこの仕事です」

「そりゃそうなんだが、飽きてはこないものなのだろうか?」

「奇をてらった楽曲を連発して迷走してるグループもありますからバランスでしょうね、大事なのは」

「まあ、ファンが飽きてからこっちがようやく気づくよりはマシか、、、」


 入店すると静川から話しかける。

「和久井さんは紅茶派でしたよね?」

「ああ、ダージリンをたのむ」

 カウンターに立っている店員にマネージャーが伝えると2人はテーブル席に腰を下ろした。


 すでにおおまかに話を耳にした静川。退屈な話題に戻ってしまうと思いながらも変わり映えのない話題をする。

「そういえば来月はセンターの皆沢バースデーイベントですね」

「そうだな」

 間延びした会話をしていると店員が飲み物をテーブルに配る。カップやソーサー、スプーンなどを配置してその音のみが無言の間を埋める。テンプレート化されたセリフの合間に見知ったもの同士特有のくだけた表情が垣間見えていた。店員が去ると和久井は静川に尋ねる。

「可愛らしい店員だな、最近雇ったのか?」

 静川は驚いたようにこう応える。

「あれは牧瀬ですよ」

 和久井は思い出そうと黙ったまま。

「面接のときキャッツアイみたいな服装で来た牧瀬ですよ。そこが『なんかおもしろい』って言って採用に決まったじゃないですか」

 やっとのことで思い出した和久井。改めて時間の長さを感じた瞬間であった。


それから程なくして、どこからかシャボン玉が飛んでくる。

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