アカノの焦燥と召集

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ------------!!!!」


ローエルの左腕から鮮血が舞い散る


上半身を起こす気力も無いのか、這いつくばりながら左腕があった場所へ右手を添えている


そんな事をしても何の意味のないのに…などと考えているとライアがローエルの左腕を持って彼の傍へ駆け寄ってきた





「ローエルさん!しっかりしてください!!今すぐに左腕を接続します!!」


斬られたばかりとは言え身体の一部分を接続するにはそれなりに高ランクな回復魔法が必要だ


彼女は【魔術士】ではあるが、攻撃魔法が主体であり、あまり回復魔法が得意ではないイメージだったのだが…


まぁ、彼女が出来るというのならば、若しくは出来るかもしれないが





「……」


さてどうしようか?などと考えている間に、気が付けば彼女からローエルの左腕を奪っていた


「え?!!」


彼女が目を見開いている間に


「ふっ!!!」


シュパ!シュパ!シュパ!シュパ!シュパ!


ローエルの左腕をなます斬りにしておいた





「え?!!!」「な?!!!」


2人とも驚愕を如実に表した表情をしている


そんなに不思議なことをしているだろうか?


最愛の人を奪われたのだ、その仇に対して回復させるなどと言う生ぬるい事を許す筈がないだろう?


本当は接続させてから、もう1度斬ってやる事も考えたのだが奪ってしまえば仕方がない。





次は右腕をと考えている私にルナエラが「止めよ」と制止した


「何故だ?!このまま四肢とも斬り落としてやらないと、弟の無念を僅かでも味わわせてやらないと…私は、クロノを…」


反論しながら感情が高ぶる…最後の方は涙で言葉が続かなかった


ルナエラはそんな私を背中をポンと押す





「すまぬな…友としては気持ちは十分に分かる為に止めたくはないのだが…私はギルドマスターとしては止めなくてはならぬのだよ…ギルドメンバーの殺害はタブーだ。こればかりはどうしても覆らぬ。」


そう言いながら3人を見下す





「それはお前たちも同様だ。国が派遣してきた者であれ、【勇者】であれ、この国では人間の殺害が重罪だ。ましてや【剣聖】に勝てない【勇者】が魔族殲滅等という役割を果たせる訳が無い。国もお前たちを見捨てるだろうよ…」


ルナエラは後ろに控えていた女性を促し、3人を拘束させた。






「…落ち着いたか?」


「…少しだけ。」


感情が高ぶり泣き出す私をルナエラは執務室まで連れてお茶を入れてくれていた


勿論、この短時間の間で哀しみが癒える訳もない


ただ、ルナエラの前で泣き続けるのも違うと感じて懸命に涙を堪えているだけだ





暫し無音の空間が広がる


彼女は私に何も言わないし、私も彼女に何も言わない


互いがお茶をすする音が微かにするだけだ





そんな時間がどれ位続いただろうか…


「【グングニル】は解散じゃな…」


彼女が不意に呟いた





「そう、ですね。あいつ等は罰を受ける、弟はいない…パーティーであり続ける意味は正直ありません。」


ダメだ、弟の事を考えると涙がまた出てきそうになる…





「アカノ、私はお前を友達だと思っている。だが、同時にお前の所属するギルドのトップでもある…だからこそ告げておくが、お前は近日中にこの国の王から呼び出しを受けるだろう。今のお前にこんなことを言うのは本当に辛いが…」と彼女らしくなくすごく申し訳なさそうに伝えてきた。





正直、私としては別の事を考えて、ほんの少しでも哀しみを紛らわせてしまいたかった


「国から、ですか…?私はあいつと違い国からの派遣という立場でこのギルドに所属している訳ではありませんが…」


「だからこそ、というべきなのじゃろうな…国や貴族たちのやり方じゃよ。国が関与していない【剣聖】、ましてや腐っても【勇者】を一閃の基に倒せる存在。国からの指名依頼も100%達成できるほどの実力者を国が何もせずに他国へ流出される可能性を捨て置く訳があるまい。」





成る程、ギルドは他国とも協力体制を敷いており、国同士の戦争行為には基本的には関与しない


それでもモンスターや魔族討伐の指名依頼が出来るほどの人間を放っておきはしないだろう


「正直、今の私には決めあぐねておりますね…そこまで頭が回らない…」





「勿論、それはそうじゃろう。だからこそとも言えるのが国のやり方なんじゃよ…」


そう言いながら憎々し気な表情を浮かべる





「まぁ、近日中に王から呼び出しが入るという事は頭に入れておけ。私としても友達と離れるのは寂しいがな。」と言いながら少し微笑む


私は少しだけ救われた気分になって「考えておきます」と微笑んで返した





ルナエラはカップを置き、真面目な表情に戻る。


「【グングニル】の解散手続きはこちらでやっておく。お前は取り敢えず家に帰って寝ろ…出来るならば当分はギルドに来ない方が良い。国からの呼び出しがあった際は伝える。」


そう言って退席を私に促す。





私は頷いて席を立ったが、その後にどうやって家に戻り何をしたか覚えていない…


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