アカノの褒賞と交渉

あの事件から5日後、私は王からの召集があり城へ訪れた。


ルナエラから前もって聞いてはいたが、この数日程度で哀しみが薄まる訳もなく何もやる気が無かった





そんな傷が癒えていない私に対して王命という形で召集させるのが王や貴族のやり方という


それに対して憤りはあるものの、些細でも気を紛らわせる事が出来たのだからまぁ良いかという気持ちも確かにある





従者に連れられて謁見の間の閉められた扉前に立たされる


何度も来た事はあるが、その都度この仰々しさに辟易してしまう





『【剣聖】アカノ=エンドロール様、ご入場!!!』


扉の向こうから私の名前が呼ばれると同時に扉が開かれた


眼前には王が鎮座する部分まで赤い絨毯が敷き詰められている


扉に隠れている従者に促されて足を踏み入れる





両脇には多数の貴族が整列し私を見ている


様々な目線を私に投げかけてくるが、その殆どが好意的ではない


(まぁ。それはそうだろう…)





【剣聖】とはいえ庶民


王と対面し言葉を投げかけて下さるのだ


私を召集したのは王と軍部を司る貴族だろうから、ここにいる貴族には関係がない





階上に王が鎮座する椅子があり、その前で立ち止まって膝を折り頭を下げる


「【剣聖】アカノ=エンドロール、王命により参上いたしました。」





前方に座する50歳前後の男性が、この【フィングルス王国】の国王だった。


神は灰色の髪に青い目、髭はたくわえていない


赤い王衣と金色の王冠を身に着けてこちらを静かに見ている


王は一呼吸してから静かに「うむ」とだけ告げた。





その後側近が貴族達に向かって大声で告げる


「この度、【剣聖】アカノ=エンドロールの手により先のガルダン峠のキングオーク一団が討伐された!


これによるガルダン峠には秩序と平和が齎された!」


「「「おぉ…」」」


(あぁ、この間の指名依頼の件か)等と考えていると、周りの貴族達が反応する





「また!国によって庇護していた【勇者】ローエル=ナランズだが、【勇者】ではないという事が判明した!!これは国を詐称する重大な犯罪行為である!!その犯罪者を検挙するキッカケを作ったのも【剣聖】


アカノ=エンドロールである!!」





「「「おおおーーーーー!!」」」


貴族達はより一層反応を示したが、当の私は何を言っているのか分からなかった。


あの外道を庇う気はさらさらないが、彼の称号は【勇者】だった…


それをステータスボードで見た事があるのだから間違いない





(これが貴族のやり方か…)


暫し、思案した後に達した結論


結局、国は彼らを守らず見捨てる事にしたのだ


ギルドからの厳重抗議が入り、片腕を失くした戦力にならない【勇者】


国都合で見捨てると体裁が悪い為に偽物とし断じる


本人たちは生涯牢獄か処刑だろうから誰にも真実は分からない


国からすれば上手いやり方だが、私個人としては好きなやり方ではない





そんな事を考えていると王が私に話しかけてくる


「【剣聖】アカノ=エンドロールよ…ガルダン峠の件、又、【勇者】の偽物を炙り出した件…大義であった。」





「恐悦至極に存じます。」


これは所謂、口止めね…


戦力で私の口を封じ込める事は出来ない


であれば褒賞を与えて共犯にしてしまおうって魂胆か…


断る事も出来ない訳ではないけど、折角だから利用させて貰おう


あの事件後に国、ギルド連名で立ち入る事を禁じられたあの場所を出向ける様に動こう…





王はそんな私の思惑をよそに言葉を続ける


「では、この度2件の褒賞として、金貨1,000万枚と爵位「名誉男爵」の位を授ける。」


金貨25枚前後が庶民の平均給与である事を考えれば大金だ、だが「名誉男爵」か…と考える


通常、貴族は世襲制であるのに対し、「名誉男爵」とは一代限りの貴族だ


貴族であるからには王命には逆らえないし他国へ移り住む事も出来ない


私にとっては何一つ都合が良い部分が無い





「私如きに過分なる褒賞を賜り、感謝の念に堪えません。」





「うむ」





「ただ、私は当然の事を当然に行ったのみ。これも王の人徳がなす結果かと…出が庶民という事もあり、この様な過分な褒賞を頂く訳にはまいりませんが、1つお願いしたき事があります。」





それを聞いて周りが騒めく


それはそうだろう、王が提示した褒賞をけったのだ


本来、目上の人間からの褒美が多かろうが少なかろうが断る事は出来ない


それは貴族社会では特に、相手の顔を潰す行為に直結するからだ


ただ、私は冒険者であり国から派遣されている人材でもない


心証が悪くなろうがどうでもよかった。





「…願いとな?どの様な願いか申してみよ」





「はっ、それでは…」








…次の日、私は【嘆きの森】へ向かう馬車に乗っていた

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