アカノの激昂と激憎
「ちょっと待った------------!!」
女性の声がギルド酒場に鳴り響く
ハッとなった私は声の響く方へ顔を向けると、12、13歳くらいの女の子がこちらを向いていた。
髪はブロンドで膝まで伸ばしたツインテールが印象的な子だ
目はエメラルドグリーンの様な色をしており一見して派手な美少女という風貌をしている
明らかに背丈を超える白いロングコートを肩から掛けて歩いてくるが、コートが床に引きずられているのが少し滑稽だった
「色々と、そう!!色々と聞きたい事があるのじゃ!!」
パーティー皆が唖然とした表情をしている事を気にも留めずにズンズンこちらに近づいてくる
そして、ローエルの前で立ち止まると、指を差して得意げな表情を浮かべる
「SS級パーティー【グングニル】リーダーであるローエル=ナランズ、少~しお話を聞かせて貰おうか?」
ニカニカした顔で、だけど目の奥は笑っておらず、威圧した目線でローエルに投げかけていた
「ギ、ギルマス…何でギルマスがここに…」
ローエルは動揺しながらも返答する
そう、彼女こそ【フィングルス王国】内ギルドの最大権力者であるギルドマスター『ルナエラ=ヴァレンタイン』その人だった。
背丈は12、13歳に見えるが実際は17歳、それでも十分にギルドマスターとしては若輩者ではあるが、親が貴族の中でも上位の位にある公爵家である事に加え、ギルドマスターの中でも頭脳が飛びぬけた存在として非常に有名でもあった。
そもそもギルドはどの国とも協力体制を敷いてはいるが、支配下に置かれている訳ではない
どの国も魔族やモンスターの脅威に晒されている今、騎士団や国の兵士だけでは賄えないのが現状だ
それに対し協力体制を敷き、国から報酬を貰って戦力を提供するのがギルドである
言い換えてしまえば、各国のギルドマスターは各国のもう1人の王と言っても過言ではないだろう
その国のもう1人の王足る人間がギルド内とは言え酒場に現れる事自体が異様なのだ
「何故?それを今から話をしたいと思って出向いたのだが…今回のS級依頼であるヴァンパイア討伐依頼及び、クロノ=エンドロール死亡に関して聞きたい事が出来てしまってのう。」
私はクロノの名前が飛び出てきた事によって頭の中の霧が晴れてくる
「ク、クロノがどうしたんだ?!クロノは生きているのか?!!」
すぐ横にいるギルドマスターに飛び掛からん勢いで問いかける
それを見ながら彼女は私の口の傍に手を広げる
「落ち着け、アカノ。それを今から彼等に問いかけるのだからな。」と言って彼女に追随しており、後方で待機していた女性に視線を投げかける。
すると、女性は少し頷いた後に、ローエルに近づいてきた。
「ローエル=ナランズ様。今回こちらにいらっしゃるアカノ=エンドロール様を除く4名でS級依頼であるヴァンパイア討伐依頼を受領されましたよね?」
「あぁ、間違いない。」
「その結果、若いヴァンパイアと遭遇して戦闘となり勝利するもののパーティーメンバーであるクロノ=エンドロール様がヴァンパイアからの攻撃により死亡したとなっております。」
「報告書の通りだ!それの何がおかしい?!」
若干苛立った様に表情をしながらローエルは肯定する
「ここから疑問が生じます。まず1点、今回はヴァンパイアは討伐したものの討伐証明としての部位は持ち帰って来ておりませんよね?討伐部位の持ち帰りに関しましては最下級ランクの冒険者でも知っている当然の知識です。それをSS級の
パーティーが持ち帰っていないという不自然さがあります。」
それはそうだ…口頭で依頼を達成したと言われても誰も信じる事は出来ない。
死体があれば1番だが、荷物にもなる為に倒したモンスターや魔族の希少部位を持ち帰る事など民間人ですら常識だ
「それは、達成時にも伝えだろう?!パーティーメンバーが死んでしまったんだ!!僕を含めた皆、哀しみで頭が一杯だったんだ!!だからこそ、今回は討伐したものの依頼は達成出来なかったという屈辱の判定を受け入れたんじゃないか!!」
「そこでもう1つ、哀しみで頭が一杯だった皆さまが姉であるアカノ=エンドロール様の為に遺体、若しくは形見の品等はお持ち頂けましたでしょうか?」
「「「?!!」」」
ここで3人は絶句した。
ギルド規定にはないものの、通常亡くなった冒険者は残された家族やいつでも傍にいるという敬意の為に遺体や品を持って帰る風習がある
大切な仲間が亡くなったにも関わらず、何も持って帰らないというのはある意味不自然だった
「そ、それは…」
ローエルが口ごもる
それを見た周りの冒険者が「確かに不自然だ」「依頼結果詐称か?」等、様々な憶測を呟く
「そ、そう!遺体は持ち帰りませんでした!!クロノさんの遺体をアカノさんに見せるのが心苦しい様な状態でして…」
ライアは咄嗟に遺体に関して弁明する
「そ、そうよ!!そんもの見せたらアカノが可哀想じゃない?!!アカノだってそんなもの見たらより哀しくなるに決まっているわ!!」
私がどんな気持ちになるか今は分からないが、それでも顔を見たいとも思う
でもそれは人それぞれでしょうけど…
ギルドマスターが続いてヴァリアに問う
「へぇ、成る程。そこは千差万別ですが良しとしましょう。それで形見の品は?」
「だ、だって!クロノの遺品に触ったら何か良くない事とかありそうじゃない!!!」
「「「!!!!」」」
彼女がそう言った瞬間、場が凍る
確かに彼は黒髪黒目の少年で世間的には不吉の象徴とも揶揄される存在だ
だがしかし、それをパーティーメンバーが言うだろうか…?
パーティーメンバーは生死を共にする為にお互いを信頼しなければ成立しない
そのメンバーが黒髪黒目なのを知っていて尚、それを口にすることは異様とも受け取られる
「ヴァリア……」
私はおもむろに立ち上がり携えていた剣を抜こうとする。
彼女にはなんらかの罰を受けて貰わなければならない
弟を馬鹿にしているのは当然しっていたが、死して尚、その存在を馬鹿にされるのはどうしても我慢が出来ない…
「ち、違うのよ!!貶したとかそんな事じゃなくてっ!!」
剣を抜こうとする私の柄をルナエラが押さえる
押さえた手から微かに震えているのが感じ取れた
「…貶めた訳ではない、と…ですが今の発言はギルドマスターとして聞き流す訳にはいかんのぉ。仕方ない…今からギルドマスター権限で【宝珠】を3人に使用する!!」と高らかに宣言したのだった
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