【チモシタタルオトメ】
アカノの虚無と恐怖
ガァンーー!!
何かをぶつけた様な音がギルド内に鳴り響く
「もう1度言ってみろ…」
自分で殺気が抑えられない
私が拳を打ち付けたテーブルがメシッと音がして割れていく
ただ、そんな些細な事はどうでも良い
思考が定まらない…
◇
国からの指名依頼から戻るとギルド内に私が所属するパーティ【グングニル】のメンバーがいた
私の弟、クロノを除いて…
クロノの所在を確認すると、3人は沈痛な面持ちで「話がある」と言いギルド内の酒場へ私を誘導した
クロノの事を何も告げずに話があるという事は怪我でもしたのだろうか?まさかかなりの重症なのだろうか?!と心がヤキモキする
「アカノ…すまない!!僕らが不甲斐なかったばかりに!!!」
酒場の席に着くなり正面のローエルが頭を下げてくる
それに倣ったかの様にヴァリア、ライアもまた同様に頭を下げだした
「な、何だ?何があったのだ?!」
突然の謝罪に頭が混乱してくる…ま、まさか…最初から打ち消していた可能性が頭から湧き出てくる…
そんなことはあり得ない!!と頭を振り3人の話に耳を傾ける
「実は昨日、俺たちは依頼を受けたんだ…S級依頼のヴァンパイア討伐依頼なのだが…」
「若いヴァンパイアであればB級依頼なのですが若いヴァンパイアなのかが確定されていなかった為にS級依頼となっていたのです。そこに私たちとクロノさんは向かいました」
依頼内容なんでどうでも良い
私が知りたいのはクロノの所在だ
そんな苛立ちを感じ取ったのだろう、3人とも少し慌てた様子だった
「も、勿論、俺たちはサポートしてくれるクロノを庇いながら依頼を達成しようとした!だが…若いヴァンパイアが思っていた以上にしぶとい奴で!クロノは…その…奴の凶刃に掛かって死んでしまった…」
「は?」
そういうと同時に無意識に自分の席のテーブルに拳を振り下ろした
ガァンーー!!
と激しい音がするがそんな事はどうでも良い
殺気殺意を仲間に向けているがそれもどうでも良い
「もう1度言ってみろ…」
自分の声が遠くに聞こえる
頭の中は冴えているのに自分じゃない様な虚無感に苛まれる
3人は私に対して恐怖の感情を曝け出すがそんな事、当然構うものか
「クロノは死んだんだ!!ヴァンパイアの攻撃によって死んだんだよ!!」
ローエルが叫ぶ様に私に伝える
それを聞いた私は急速に頭が冷える
あぁ…こいつ等は嘘を言っている
クロノが死ぬ訳が無い!こいつらは後で私に「冗談だ」と言って何処からかクロノを連れてくるんだ…
そう思うのに、身体から力が抜ける…目の前が真っ白になる…
頬に水が掛かる…
手で水に触れると同時にそれが涙だと気づいた
「う…うぁぁぁぁぁぁぁぁ----------!!」
自分の剣に手を掛ける!!それと同時にヴァリアが後ろから羽交い絞めにしてきた
私が混乱する事でも察していたのだろうか…
「ち、ちょっと!!アカノ、落ち着いて!!気持ちが分かるけど、こんな場所で暴れないで!!」
ヴァリアはそう言いながら私を押さえつけてくる
分かる訳がない!!お前たちに私のクロノへの思いが理解できる訳がない!!
普段の私なら何の問題も無くすり抜ける事が出来るが、力が入らないからだろうか?
ヴァリアを振りほどく事が出来ない
「離せ!!貴様等クロノを、クロノを見捨てて!!うぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
尚も暴れ、叫ぶ私にローエルは叫ぶ
「ち、違う!!俺たちが守れなかったのは事実だが!!クロノを見捨ててなんかいない!!」
「そうですよ!!私たちは見捨てたりなんかしていません!!」
「アカノ落ち着いて!お願いだから落ち着いてよ!!」
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どれ位暴れただろうか…
周りの冒険者が遠巻きに私たちを見ている
私は精も魂も尽き果てて、椅子でグッタリとしてしまった
でも涙だけは枯れてはくれない…
クロノ…私が国の依頼に出向かなければ…SS級の実力を有した力を私が持っていなければ…
【剣聖】なんでクラスになっていなければ…2人だけのパーティーになっていれば…
冒険、者になって、いなければ…
考えれば考えるほど涙は止まってくれない
…そんな私に近づきローエルは言葉を投げかけてくる
「クロノの事は、俺たちも本当に残念に思う。だが、アカノ…そんな哀しい顔をした君をクロノは喜んでくれるかな…?」
クロノは私の哀しんだ顔を喜ばない
「今は哀しむだけ哀しんだら良い…何しろ家族を失ったんだから。でもまた僕らと歩き出そう、クロノもきっと喜んでくれる。」
クロノが喜んでくれる…?
「君とクロノが作ったパーティーが【グングニル】だ。アカノが【グングニル】で僕らと一緒に頑張っている方が嬉しいに決まっているよ。」
クロノハ、グングニルデ、ガンバルワタシガ、ウレシイ…??
「俺はずっと、お前の横にいるよ。死んだりなんかもしない。さぁ、俺と一緒に行こう。」
ローエル ハ シナナイデ イッショ ニ イル …
「ここは周りの目もある…さぁ、一緒に行こう」
死んでしまったクロノと違いローエルは死なない…
そう言って差し出された手を掴もうとする…
その瞬間、
「ちょっと待った------!!」
と女性の声が酒場に響き渡った…
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