クロノの苦悩と絶望
彼が笑いながら紡いだ言葉、【真祖】…
それは誰にとっても最悪という言葉では当てはまる事が出来ない最悪な言葉だった
この世界には幾つもの種族がいる
その始まりの存在こそ【真祖】だった
言ってしまえばその種族にとっては王どころか神と同一視される存在
そんな存在だからこそ、その後に連綿と繋げる子孫達を生み出す事が出来る【真祖】は隔絶した力を有していると言われている
そんな神とも同一視された存在が眼前にいると想像できる者など何処にもいないだろう…
「し、真祖…?お前が?!」
ローエルは混乱気味に叫びだす
その言葉を聞くとまたクックッと笑いながら事もなげに話し
「そうだよ、私は真祖に連なるものだ。但し、ヴァンパイアだけの真祖という訳では無いんだがねぇ~」
意味有り気に呟く
「まぁ、この場でその様な問答を行うのは些か情緒にかけるね。
君たちは私を討伐にやってきた、私は君たちを返り討ちにする為に現れた。
であるなら剣戟と業火の渦中にいるべきだね。」
そう言うと両の手に黒い炎を纏い、初めて僕らに対して敵対意識を持ち出す。
瞬間、体全体が異様に重くなり呼吸がしにくくなり頭が真っ白になりかける…
それは僕だけではなく、パーティーの他の皆も同じ様だった
「あ…あ…」
「か…から、だが…お、重い…」
「うそ…勝てるわ、けない…」
ローエルは立ち上がる事が出来ず、ヴァリアは腰が受けた様にライアは茫然と呟いていた
僕も自分の事で精一杯で他の皆の様子をじっくりと見る事が出来たわけではない
ただ、視界の端っこに皆の様子が写っただけだ
だけど、そんな皆の様子を見て少しだけ意識が戻る
僕はなんだ?【グングニル】のメンバーだ
皆が戦意喪失していても誰かが動き出せば他の皆が追撃に動く事が出来るかもしれない
薄い、本当に0に近い可能性だけど、真祖を討伐とまでいかなくても退ける事は出来るかもしれない
じゃあ、初撃を誰が行う?茫然自失の彼らでは無理だ…意識が戻ってきた僕だけだ…
姉さんなら、姉さんなら…姉さんが今の僕なら当然に動きだす!!
動け動け動け動け!!!
自分の身体に叱咤をし、腰に帯刀している剣を掴み駆け出した
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ-----------!!!!!」
僕は剣を抜きながら彼のいる階段の上へ駆けあがると同時に剣を横薙ぎに振りぬいた
相手を斬れる!!と思ったのはホンの一瞬、彼にとっては避ける必要もなかった様で、自分の身体の横に添えられている僕の剣を見ながら微笑んだ
「気力は大したものだね~。
僕の威圧を前にこんな短時間で動けた存在は本当に久しぶりだよ。
ただ…残念ながら君は身体能力が弱すぎるね…」
そう言うと僕の額を軽く押す
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…--…!!」
指で加速をつけて弾くでもなく、人差し指で額を軽く押す
ただそれだけで意識が飛びそうになった
手や足にも力が入らない…正直、気絶をしないだけでも助かったと思った
誰か追撃を行っていてくれと願いながら階下をみると誰1人して動く事が出来ていない
もうダメだ…僕自身も動く事が出来ないし、皆も動く気配が無い
正直、全員が一斉に攻撃を繰り出したとしても3分ももたないだろうと感じて諦めそうになった瞬間、ローエルがフラリと立ち上がった
「……」
ローエルは立ち上がって階段を上がりだした
剣を片手に携えてゆっくり上がってくる様子を見て、何か策があるのか?と意識が飛びそうな頭を振り絞り考える
だけども分らない
彼が戦闘態勢も取らずにこちらへ向かってくる意図が全く理解できなかった
そしてもう1つ分からない事が…僕に対して睨んでいる様に見えるその表情が分からなかった
「……」
ローエルは横たわる僕の前で立ち止まると剣先を僕の方へ向ける
「ロ…エル…??」
僕が名前を呼ぶと同時に剣が振り下ろされる!!
ザシュッッ!!と音と同時に肉と筋繊維がさかれる音がした
「あああああああああああ!!!!!!」
血が飛び出し、ローエルに付着する
「この馬鹿が!!真祖たる御方に剣を向けるとは何事だ!!!この御方は真祖だぞ!!神だぞ!!!お前の様な無能で弱く、役立たずで不吉の象徴なんかとは違うんだ!!なにを考えている!!なにを考えているんだ!!!」
そう叫びながら僕の身体をめった刺しにしていく!!!
次々と訪れる激痛で意思と反して叫び声が上がり、身体が痛覚で反応する
痛みの余り涙まで流れ、口からは血が飛び出てくる
涙で溢れる目でヴァリアとライアをぼんやり眺めると彼女達が何かを叫んでいる
ローエルを止めてくれているのだろうか…と期待を込めて意識を保つ様につとめる
「この無能!!さっさと死ね!!
「真祖様に何てことを!!死んで償え!!」等の罵詈雑言の嵐だった…
なんでだよ…
あの状況下で戦う以外の選択肢はなかったじゃないか…
仮に謝罪し逃げようとしても逃げられる筈もないじゃないか…
僕は皆の為に、皆のために、みんなのために…
あぁ…意識が遠くなってきた…
姉さん、ごめんなさ、い…
そう思って意識を飛ばそうとする僕にの耳から聞こえてきたのは、
「……止めろ」という真祖の言葉だった
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