クロノの執着と終着

「止めろ」という真祖の言葉が鳴り響く


最早、僕の意識は今にも途切れそうで正直彼が何を言っているかも理解できない


だが彼は最初の印象の様な剣呑とした表情では無く、怒気をはらんだ表情で止めた





彼は片手をあげて僕の方へ手を向けるが、少しためらっている様にぼんやりだがと見えた


そんな僕を放って彼は【魔術士】ライアの方へ顔を向ける。





「女…貴様は人間の回復魔法を使用できるな?この男を癒してやりたまえ」





「な?!!「え??!」」





その言葉にローエルとライアが驚きを隠せない。


ローエルは膝を折り敬意を示す





「恐れながら真祖、この様な敬意もなくあな「黙れ」」





ローエルの言葉を遮る様に強く言葉を遮る


「女、この横たわっている物が死した場合は、貴様等誰も楽に死ねると思うなよ…」





その言葉を聞きライアは青ざめながら僕の方へ近づいてきた


「ヒーリング」と彼女が発した瞬間に青白い光が彼女の手のひらから僕に注がれる


意識が途切れかけていた僕は気分はマシになり思考も少し回復した


だが、流石に立ち上がったり言葉を発する事は難しそうだ





ライアは僕にヒーリングを行った後に真祖の方へ顔を向け、傅きながら「命の危険性は取り敢えずは無くなりました」と伝える


それを聞いたローエルは再度、真祖の方を向いて言った





「恐れながら真祖、この様な敬意もなく貴方様を害する無能、何故生かす必要があるのですか?!」


その言葉を聞くと、ため息をつきながらローエルの方へ向いて伝える


「私が求めたのは君たちとの戦いだ。その為に私は君たちの前に現れた。


そんな私の願いを叶えようとしてくれたのはそこの少年だけだったからね…」


そう言いながら心底軽蔑した表情でローエルの方へ顔を向ける





「君たちは戦う事はおろか、姿を現すにも満たない矮小な存在だ。さっさとこの屋敷から出て行ってくれ。依頼者には討伐したでもありのまま伝えるでも何でも良い…君たち人族という存在が心底嫌になるよ…」


真祖はそう言い残して姿を消した





暫し茫然とした表情だった3人だったが、我を取り戻したのか「行こう」というローエルの指示の基で動き出す


ライアが僕をちらりと見るとローエルに向かって「こ・れ・は如何しますか?」と聞く


ローエルは苦虫を潰した様な表情をした後に「連れて行くぞ…置いて帰ると真祖の機嫌を損ねかねん。」とぶっきらぼうに呟いた。


僕はライアの魔法で動いたり言葉を発する事はまだ出来ないが、思考だけは働いていた


そんな僕を知る由もないだろう彼らの言葉に僕はやはり要らない存在なんだな…と思うと悲しくなる





ギルドに戻ったら、正式に脱退しよう…とヴァリアの肩を借りながら決意した











【嘆きの森】を入って直ぐ、木の根元付近に僕は放り投げられた


当然、直ぐに回復する訳もない僕は木に身体を預けながら3人をぼやっと見つめる





「で、どうしますローエル様、この不吉の象徴じゃなく、不吉そのものの役立たずは?」





え?





「当然、ここで消えて貰う。連れて帰っても事の成り行きを聞けばアカノは激高し、間違いなくパーティーを脱退するだろう。最悪、俺たちが彼女に命を狙われる可能性すらある。」





え?





「そうですね…真祖であった事は伏せて、ヴァンパイアは討伐、ただこ・れ・は戦闘中に戦死したという流れで行く方が良いでしょう。」





え?





声は聞こえているけれども思考が追い付かない


決死の覚悟で真祖に立ち向かったと思えば仲間に殺され掛け、命が助かったと思ったらまた仲間に殺され様としている…?


(なんの冗談だ?!!!)と叫びたいのに声が出ない





「このまま置いていってもモンスターに殺されて問題無いだろうが、念には念をという事もある。


無能、ここで俺たちの手で死んでくれ。」


そう言った彼の手には剣が添えられていた





「無能、あんた如きが私たちのパーティーに加入していた事自体が間違いなのよ。


ここまで生かしてもらえていた事に感謝してよね。」





ヴァリア…





「あなたの様な疫病神がここまで生きていられたことが奇跡なのです。他種族とはいえ真祖に刃を向けた事は重罪です。ここで消えていくが良いでしょう…」





ライア…





「初めて会った時から気にくわなかったよ。アカノはお前の事ばかりでこっちを見る事もない…


お前がいなくなった後は俺がしておいてやるから安心しな!」





ローエル…





「じゃあな、無能な無職!!死んでも化けてでるなよな!!」





ザシュッッーーーと無機質な音が頭に反芻される…


ちくしょう…ちくしょう…なんでこんな目に…





「ちく、しょ…」





僕の意識はそこで途切れた。








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