第8話 旧友ト会ウダケノ一日

「来ないな。」


「そうだね……誰待ってるのか知らないけど。」



一日で1番店に客が入り始める昼を過ぎ、客入りが比較的穏やかになった16:00頃。


この店はカーラ1人で回しているが、俺が居る時は忙しい時間帯の手伝いをしたりしている。



なのでそんな時に協会からアイツがこられても困るのだが、流石に少し遅い気がする。


「こんなに時間があるならエルを帰さなきゃ良かったな。時間がある時くらいしっかりと相手してやらないと手を抜いてると思われる。」



「実際手を抜いてるでしょ、結局やらせてるの読書だけなんだから。」



「あれがただの本ならな。結構凄い魔導書なんだぞ?。」



そこら辺に売ってるような本を勝手に呼んでいろとは流石に言わない。


とは言え、一般人からすれば高度な医学書と大差ないか。



手持ち無沙汰なので、店に置いてあるバックからワックスを取り出しクロスボウの弦とレールに少し塗る。


この2箇所は使う度に擦れてしまうので、こうして度々ワックスを塗る事で寿命を伸ばしているのだ。



「……終わったらちゃんと手を洗ってよね。そのまま色々触られると臭いが移っちゃうから。」


「分かってるって、今から洗う所だよ。」


そう言って店の外に出る。


色々触られるとには店内の水道も含まれている……なのであまり乗り気ではないが手を洗うのは店の入口にある蛇口を使わなければ行けない。


腕を使って器用にドアノブを捻り、体で押し開ける。


路地に出て隣の蛇口を捻り、水を出す。


この時期の水は本当に冷たいので、すぐに済ませたいが適当だとカーラが煩い。



「……店の外で何やってるんだ?、客が入らなくなるぞ。」



バシャバシャと豪快に水を飛ばしながら洗っているのでそう思われても無理はない。


実際にそれを指摘したのは入ろうとした客では無く、今日1日散々待たされた相手だった。


蛇口の栓を締め、手を振って水をきりながら立ち上がる。



「よぉ、ギルバート。待ってたぜ。」


「待ってたぜじゃないよ。用事があるなら普通は『来る』だろ……そっちが協会に。」


成人男性の殆ど平均値である俺の背丈よりいくらか高い……長身の男。


少しだけ縮れた髪と不機嫌そうな顔(これが普通)で貴族のような(とゆうかギルバートは貴族)ハットと燕尾服をきたこいつは学院時代の旧友なのだ。



「ほら、コッチの方が楽に話せるだろ?。久しぶりの再開何だから積もる話だって有るだろ。………まあ入れって。」



「入れって……ここディノの家じゃ無いだろ。本当に調子の良い奴何だから。」


そう言いつつも手が濡れている俺の代わりに店のドアを明け、ギルバートが先に中へ入るので続いて中に入る。



「お、ギルバートじゃん、元気してた?。」



「久しぶりカーラ……所で客払い出来ないかな?、金は出すから。」



そう言ってギルバートはカウンターに紙幣を数枚置いた。


見渡すと中にはまだ2人のお客さんが居る。


「……はぁ、ディノもディノだけど……アンタもアンタだね。コソコソ話なら地下室使ってよ。」


「別に大した話なんて無いぞ。わざわざこっそり話す必要なんて……」


俺がするのは路地破壊の経緯と、遭遇した魔獣の能力と疑問点だけだ。


別に協会に対して不利な発言をする訳でもない……それに人払いはやり過ぎだ。


しかし、ギルバートは特に反応を見せるわけでもなく……そのままカーラが示した地下室への階段に向かった。



「どうしたんだよ?、なんか雰囲気硬いぞ。」


「当たり前だろ、死人が出たんだから。」



死人が出た……確かにそれは一大事だ。


「……は?、そんな言い方するって事は俺と関係が有るんだよな?。」


「当然だ……お前から連絡を受けた時、丁度その近辺を通って街を出る魔術士が居たから状況の確認を依頼したんだ。そいつらは2人組だったが1人だけが何とか逃げてきたんだよ。」


「……それ本気で言ってるのか?。」


答えを聞くまでもなく本気だ。


肯定するのも面倒だと言わんばかりに、ギルバートは顔をしかめている。



「お前こそ……本当に無事だったのか?。この2人の魔術士はランクCの術士だったんだぞ?。」



「無事じゃねぇよ、今も腹が痛いし…。でも俺は殺される様な相手とは思わなかったな。」



術士には等級が有る。


術士として認可が降りた状態……言わば全くの新人に与えられるランクEを始めとし、見習いのD、そして最も一般的な階級のC。


俺とギルバートはその1つ上……ランクBの術士なので、件の術士は俺より弱いと思われる訳だが………。



「俺が会った相手は透明になる魔術を発動させた魔獣だったな。だが攻撃手段は打撃のみだった……痛みは強いが、手の施しようがない傷は負わない筈だぞ。」



「そんな事を言われてもなぁ、外傷の種類や具合……その時の状況なんかも一切聞き出せてないんだよ、その術士からは。……他になにか無いのか?、本当にそいつは脅威じゃ無いのか?。」



元から締まっているギルバートの顔が、ついには睨みつけるような表情の硬さとなり、俺に問い掛けてくる。



そんな事言われても……かなり効果が高いとは言えやってる事は単なる潜伏の魔術。

防御の魔術を使ってる訳でも無いのに何とか意識を保てるレベルの攻撃力……、


これが魔獣と考えるなら駆除は容易いだろう。



(魔獣なら………魔獣………あっ……。)


犠牲者が出ているのだから真面目に頭を働かせなければ行けない………、そう思いあの時の状況を振り返っていると……1つの不審点を見つけ出せた。



「……『銃声』……、弾が飛んで来た感じはしなかったから空砲…或いはそいつの『音真似』でなっていたのかもしれない。」



「銃声だって?…それがどうした。警察だって銃は持っているし、獲物を誘き寄せるために音を出す魔獣もいる……。」



「ああそうだな……そんな魔獣も居るにはいるな。」


確かに、発生してから時間が経った魔獣は獲物を誘き寄せるために音を利用する物も居る。



「でもよりによって銃声を真似するか?。しかもそいつは銃声の真似の直後に攻撃してきた……。」


人は危機を感じると無意識に防衛反応が起こる。


普段から銃声を聞きなれてない者が突如銃声を聞いた場合……咄嗟に物陰に走り出す事は出来るだろうか?。


恐らくできない……、意識が働くよりも先に……僅かな硬直が全身を縛り付けるのだ。



「人を攻撃する為に銃声を発していると考えた時……、次に疑問になるのはそいつがどう言った経緯でその習性を獲得したかだ。」


「……普通に考えれば獲得しようの無い習性だな。日頃から溢れる音でも無いし、生物的な音でも無い。」



魔獣だとしてもそれは生物だ。


生物には必ず本能と習性が備わっている……


銃声を真似するのは明らかに習性だろう。獲物を呼ぶ声が偶然にも銃声だったとは考えられない以上、明確に銃声に寄せた音をわざわざ発しているのだ。



「ディノ……、流石にそれは深読みしすぎだ。お前が何を思っているか俺には分かってるぞ。」



「……俺だってそんな事は分かってるさ。」



獲物を呼ぶのに使えない……、普段から聞こえる音でもない……、そう言う鳴き声とは考えられない以上あいつはわざわざ銃声を再現している。


そう……『人間を短時間拘束する』事しか出来ない音を……。



「人にだけフォーカスが絞られている、だとすればこいつは偶然生まれた魔獣じゃない。」


そうか……逃げる際に感じた違和感はこれだったのか。


格別な脅威と感じなかったのに……すぐに逃げたくなったのはこうゆうことだったのか。



ギルバートが長いため息をつく。


「……明日また来る。ランクCの術者がダメならランクBの術士が調査を引き継がなければいけない。………言いたいこと分かるよな?。」



勿論だとも……、


この場に都合よくランクB術士ウィザードが二人居るもんな………。



「無理って言ったらどうする。」


「別に……何もしないさ、何一つね。請求書が来ても協会は何もしない。」


「………調査だけだからな……、俺の判断で引き揚げるからな………はぁ。」



これが魔術士の嫌な所だ………。



嫌な依頼だろうと協会とゆう後ろ盾が無ければ魔術士はやっていけない……この依頼は断れないのだ。






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