第7話 好カヌトハ言エ報告ス
・人体の抵抗力
咳、発熱等の軽微かつ時間経過で治癒しうる症状は、主に体外からの疾病要因が原因と考えられています。
また、これらの症状を発症した患者達に共通する事として『一般的に不健康な生活週間、及び状態』がある事が確認されており、普段は人体の生物的防衛能によってこれらの軽疾患の発症が抑制されていると考えられています。
…………………
「……やはり、これはどうとっても『医学書』のように感じますね……。」
ディノさんが外へ出た後も、私は言われた通りに渡された本を読んでいた。
理解が魔術に影響するとは言われ、確かにここに書かれてある事は今まで学校で習ってきた事の1歩先について書かれている事も……つまり、私の『医学』についての理解が深まっている事も理解できるのだが。
「本当にこれが術式に影響を及ぼすのでしょうか……。」
「……あっ、その本ね。ディノが小さい頃に読んでたよ。」
程よい甘みと、熱すぎない丁度良い温度で出されたミルクティーをすぐに飲み終えてしまったので、カーラさんがもう一杯を出してくれた。
「小さい頃……カーラさんはディノさんの幼なじみなのですか?。」
「ん?……まぁ、そんなとこかな。2人とも近くの農村で暮らしてたんだけど、私はおじいちゃんの経営してたこのお店を継ぐ為に、ディノは魔術士になったから街に来てたの。」
確かに馴染みの店の歳の近い店員と客とゆう感じはしなかった。
農村で過ごした幼少期と街で暮らす今……そんなちょっと変わった出で立ちを一緒に過ごしてきた2人の仲はとても良いのだろう。
実際、見ていてもそう感じたし。
「……あれ?、カーラさんがお店を継いだんですか?。」
「うん、一人っ子だったんだよね。」
「一人っ子………ですか。」
こうゆう家業のようなものは男兄弟が継いでいくものと思っていたが……確かに男兄弟が居ないのなら仕方ない。
「……でもカーラさんはまだ若いじゃないですか。お父様はどうしても離れられないお仕事でもしていらっしゃるのですか?。」
聞いた所によるとディノさんは20歳になるらしい(成人して尚コーヒーも飲めないとカーラさんが言っていた) ……、それならカーラさんも20歳前後だろう。
「あーね…………まあ、死んじゃったんだよね。」
「あっ………ごめんなさい。」
以前、世話役であるメリーが買い物から帰った時に『あっ、……ナツメグを買い忘れてしまいました。』っと困ったように笑っていた時を思い出した。
家族の死……とても重い筈であるその事を、カーラさんはその時のメリーのような………忘れ物を恥ずかしがるような笑いで言った。
「私が物心着く前にお母さんは居なくってさ、お父さんも前の戦争で死んじゃってさ。それからズルズルと生きてるうちにおじいちゃんまで死んじゃったから………。まあ、ディノに付いてきた形で街に来たんだよね。」
「戦争……お父様は軍人さんだったのですか?。」
前の戦争……10年前に起きたミロク戦争の事だろう。
私達の国、エイマーレ王国の周辺で同水準の軍事力・経済力をもつ国は片手で数えれる程しかない。
ミロク戦争とはその内の王国制マレケトゥア対フラル 共和国・連邦制首長国レギオス(一般的にはレギオスと呼ばれる)の同盟で怒った戦争だ。
エイマーレはこの戦争起因に関係していた訳では無いのだが、長期化した際の経済不安や国境を接し、友好国であるフラル共和国の存在から表に出ない形でこの戦争に助力した。
資金や軍事物資の融通に、医師の派遣……更にはフラル共和国の軍服をきて戦う秘密裏な援軍………カーラさんのお父さんもこういった事情で戦地に赴いたに違いない。
「いや、普段は猟師をしてたの。でもいきなり来た人達に『森林での活動経験が豊富な狙撃兵が欲しい』って理由で連れてかれてさ。
戦争が終わったって聞いてやっと帰ってくるんだと思ってたら……最初に来た人達と同じ格好の人が少ない遺品を持ってきたの。」
「そうだったのですか………。指名射手に選ばれるなんて、本当に運が無かったのですね……。」
他の国では分からないが、エイマーレでは度々ある事だ……軍外部から人員を補填する事は。
恐らく、カーラさんのお父様は本当に優秀な猟師だったのだろう……それが帰って軍部に興味を持たせてしまったのだ。
「……まあ、運がなかったのは私だけじゃ無いから。そいつが近くに居てくれたおかげで気が紛れた所もあるし。」
「近くに居てくれた……それって………。」
それはきっと………、
分かりきっている答えがカーラさんの口から伝えられる直前、店のドアが呼び鈴を鳴らしながら開いた。
「あっ、おかえり………って。どうしたの?しんどそうな顔してさ。」
お店の店主だけあってカーラさんの反応は早く、入ってきたのがディノさんだと言う事もすぐに気付いた。
「どうしたもこうしたも無いよ……2回殴られたから逃げてきただけ、ちょっと電話貸して。」
帰ってきたディノさんの表情は少しだが暗い……いい事が無かったことはすぐ分かる。
「2発殴られたって、喧嘩の仲裁でもしてきたのですか?。」
「いや、俺は喧嘩の仲裁なんかしない。未確認の……恐らく魔獣から2発打撃を受けたんだ。そんで、正体が分からんから逃げてきた。」
そこまで言うとディノさんは、カウンターの奥にある電話の数字が刻まれたプレートを回し始めた。
「……珍しい、今までこんな事無かったのに。」
「ディノさんは強いですしね……、相当危険な相手だったんでしょうか……。」
小声で話し始めるディノの暗い雰囲気から何かを察した2人はただ静かにその会話が終わるのを待つ……。
ディノが魔獣を相手に逃げてきた……その事実こそがこの街規模での不安要素だと、直感的に理解したのだ。
………………
「別に魔獣は大した事ないよ、ただ気になる所があってさ。じゃあなんで電話をかけてきたかって?……いやさぁ、逃げる際に路地をぶっ壊しちゃったんだよねー。
ほら、申告しないと色々まずいじゃん?。」
2人は知らない……。何故ディノが暗い雰囲気で電話かけたのかを………。
「大丈夫だよな?……接敵中の破壊行為なら問題無いよね?。さっきからその事だけが心配何だよなー。」
怯えているのは魔獣では無く、逃亡の際に破壊した路地の賠償である事を………。
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