第6 寒天ノ下デ金ヲ追ウ Ⅱ
「カッコイイですよね、魔術士さんって!。」
「……そうか?。」
案内をしてもらっていると青年の方から声を掛けてきた。
「だって『選ばれし人間』じゃないですか!!。魔術を使える人間なんて本当に少ない……そんな才能とそれを活かせる仕事……羨ましなぁ。」
「……そんな大儀なもんじゃないと思うんだけどなぁ。」
どうやら青年が道案内を買ってくれたのは一種の憧れの様なのを抱いて居たからの様だ。
まあ確かに……珍しい物・希少な物を特別視しがちなのが人間だ………と思う。
魔術士もそうだ……そもそもの絶対数が極僅かな為、使い道を間違えなければ比較的良い待遇があると言える。
「……そうは言ってもなぁ、所詮は役に立つ『少数派』止まりだよ。なりたくてなるもんじゃないさ。」
「そんな事言っても……自分みたいに毎朝新聞を配り歩いて、昼からは他の仕事を探して歩くより全然良いじゃないですか。」
……やはり楽して生きてる訳ではないようだ。
そんな彼から見れば……才能を持って産まれた時点である程度の人生が保証されている俺達は確かに羨ましいのかもしれない。
「自分も魔術士に成れればなぁ……。協会?でしたっけ?……そこから依頼を受けて、困ってる人を助けて……。産まれた時からその道を選ぶ権利があるなんて……。」
妬ましい……とは思ってないか。
単純に羨ましいのだろう……。
「……選ぶ権利か……、そんな物は無いよ。君が今新聞配達をしているように……俺達は才能を持って生まれた時から魔術士になる事が決まってるのさ。どっちも人の為にある仕事で、人生に流されるままに就いた仕事だよ。」
(………違いと言えば平均寿命くらいだな。)
身を危険に晒さなくてもいい仕事なんていくらでもある。人からありがとうを貰える仕事もだ。
だが魔術士は生まれた瞬間から魔術士なのだ……死ぬ時まで。
俺が正しくその例だ、
別に好きでもないのに……今こうして魔術士を名乗って居る。
『 パァァァンッッ!!!』
俺と、前を歩いていた青年が瞬く間に硬直する。
右側から突如として響く銃声……、すぐ近くでなった甲高いその音に全身の筋肉がこわばり
歩みが止まる……。
「んなっ?!……、」
そんな僅かな静の瞬間に、
ハンマーでも打ち付けられたかのような鈍い感触と質量感ある鈍痛が右半身に衝突し、軽く吹き飛ばされる。
「魔術士さんっ!?!?、」
「今すぐ逃げろ!!、逃げ損ねたらシバくぞ!!!。」
青年が俺の事を心配してくれたが、この状況でも俺はお前の事が心配だ。
軽いパニックを起こしてしまい、穏やかな物言いでは無いが……俺の気迫から察したのか青年は一目散に掛けていく。
「クソいてぇ……、ぜってえ殺す。」
右半身を襲った痛み……いや、半身とゆうより右腕に『何か』がぶつかり、その衝撃が半身に伝わった感じだ。
体を起こし、敵かいるであろう方向を向く……。
「……くそ、どこに隠れやがった!!。」
そこには誰もいない。
銃声がした割には銃弾は当たっていない。
(弾が外れたから近接攻撃をされた?。どうやって?……もしそうならどうやって逃げた?。……そもそも『銃弾の音』はしたか?。)
銃声と聞いて誰もがイメージするであろう『パンッ!!』とゆう音………だがそれは銃口からガスが盛れでる音で、『弾』の音ではない。
響くような衝撃音、弾が物体に命中した着弾音………、
(聞こえたか?……聞こえてない……。いや、そもそも相手は何処に?!。)
毛を逆立てる犬猫の様に……膨らむ怒気・殺気を放ちながら目に移る全てに注視する。
相手が道の手段で逃げたのならそれでいい。
最悪なのは未知の手段で『潜んでいる』可能性………その最悪を徹底的に排斥する!!。
(…………なん……だ、……あれ?。)
異質な『ソレ』を発見する。
……いや、異質な『ソレ』と『目が合った』。
浮いてる……『目玉』が 空中に。
その目玉を中心にゆっくりと意識を向ける。
僅かだが……不自然に傾いた鉢植え。
風もないのに傾き続ける2階のベランダから干された作業着。
狭い路地、登りきっていない太陽、並ぶ建物………
それらによって影に塗りつぶされてるこの路地だから気づかなかった。
(……居る………、何かがそこにっ!!。)
20メートル程先……何かが確かにそこに居る!!。
鼓膜に伝わる乾いた炸裂音………
再び全身の筋肉が僅かに硬直する。
(またか?!……この銃声……いや、この『音』もアイツのっ)
「がァァっ!!!、」
腹部を襲う衝撃と痛み。
先程と同じ……鈍器のような質量での打撃。
だが……先程のように飛ばされること無く……『100%』に近い威力を臓器の詰まった腹にもろに受ける。
痛い……ジンジンとただ残る痛みではない。
柔らかい腹に受けた一撃は最初のインパクトも去ることながらそのあとも延々と内蔵をゆらされ続けられるような…不快な痛みが響き続ける。
最初の一撃は肩……つまり重心より上に受けた打撃であり、それによる転倒があった。
当たった敵が吹っ飛べばその威力は高い?……冗談も程々にして欲しい。
打撃を与えた対象が『動く』とは即ち、与えたエネルギー……『威力』が対象を動かす力に分散されているとゆうこと。
だから最初の一撃は転倒による全身打撲はあるものの、右腕が動かしづらくなる程度に収まっていた。
(顔よりマシだが……重心点ドンピシャの柔らかい腹に1発貰うとか……ついてねぇ。)
そのままゆっくりとしゃがみこむ。
痛みのあまり脱力してしまった『かのように』。
(……だが、隠れる能力が優れてるせいか打撃力はまだまだ改善の余地が有るみたいだな。俺はまだ『動ける』っ!!。)
「
膝をつき、そのまま手を着く動きに合わせ術式を発動させる。
不自由が残る右手にかわり、左手に込められた魔力が左腕全体をゾワゾワと迸り……
その手がレンガ舗装の路面に触れた瞬間……
四方へ広がる無数のヒビとバキバキとゆう音……
その直後、辺りに拡がった無数のヒビから粉状にまで粉砕されたレンガが吹き出し……辺り一面を震わせるほどの爆音と細かいガレキを巻き上げながら『爆発』した。
舞い上がった砂煙は広く、濃く………ただでさえ暗めの路地の視界を一層悪化させる。
………それと同時に、全身の力を振り絞る事で一気に立ち上がる。
(来た道に……砂煙が晴れる前にっ!!。)
想定される体躯と姿が見えないとゆう能力。
相手は間違いなく『魔獣』だ。
(あの大きさで無防備な人間を仕留めれない程度の攻撃………恐らく奴は『弱い』……でも、)
一目散に来た道を戻る。
清々しいまでの『敵前逃亡』だ。
魔獣を殺す事で生活費を稼ぐ仕事をしているのに、出会った魔獣から逃げるとゆうのも変な話だが。本能的にこの場は引くべきだと感じたのだ。
痛みは残るが精一杯に路地を走る。
幸いにも、迷わないように曲がる回数を少なくしていた事が功を制し、快調に帰路を辿る。
魔術による強化すらも無く、毎朝糖分を摂取し続けた体での全力疾走。
当然の様に息が苦しくなってくる。
(足を止めるな……、俺はまだ『何も』分かっていないのだからっ!!。)
それでも走るのを辞めない……、
せめて………この住宅地を抜けるまでは……、陽の差す広い場所に出るまでは……。
その場所へ出る事に特に意味は無い。だがこの場所は奴らのテリトリーなのだとゆう確信が心の内側から俺を急かす。
「クソォッ!!、ランニングでもしとけば良かったぁ!!。」
クロスボウを担いでいる事から分かるように、俺は体力を活かして走り回る……なんて戦い方はしない。
故に筋力が衰える事には注意しても、比較的長い距離を走り続ける準備はしていない。
ガチャガチャと背中で暴れるクロスボウが鬱陶しい。ただでさえ精一杯なのに、デタラメに動き回る重量物が邪魔で仕方ない。
「……無理だぁ!!、流石に疲れた!!。」
数分間駆け続けたが、大通りまであと少しとゆう所で足が止まる。
すぐさま後ろを振り向き、乱れた息を整えながら奴が居ないか警戒する……。
「…………取り敢えずは……大丈夫そうだな。」
先程の何も無い所に浮かぶ目玉が見当たらない……どうやら振り切った、もしくは追ってきてない様だ。
今度はゆっくりと歩き始める。
息が整うと、足の疲労感はあるものの……ようやくまともに頭を回し始めれた。
(……まずは帰ってカーラに電話を借りないとな。)
協会にこの事を報告しなければ……そう出ないと俺は理由もなく路地を破壊した軽犯罪者だ。
それを報告したら次は『何故逃げたのか』についても話さなければいけない……。
「はぁ……、今のうちに話す内容まとめておかないとなぁ。」
久しぶりの長距離走で下半身に倦怠感、そして奴の一撃による腹部の鈍痛とコンディションはよろしくないが……。
そんな気乗りしない現状ながら、投げかけられるであろう質問も考慮した説明を考えながら……俺はカーラとエルの待つ店へ戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます