第5話 寒天ノ下デ金ヲ追ウ


「あー寒っ。やっぱ帰りてぇー。」


明けの帳……カーラの店にエルを置いて出てきたが……、


腰に革紐で繋いである懐中時計に目を通す。


時刻は7時50分


「まだ5分くらいしか経ってないのか〜。予定より早めに戻ろうかな。」


魔獣の発生は人気の少ない場所・時間と決まっている。

通勤中の労働者が通りを歩むものの、基本的に昼の前後に魔獣が発生する可能性は殆どない。


また、夜間に発生した魔獣が見つかるのも大体は朝だ……なので街で魔獣を狩りたいなら早朝の巡回は欠かせない。


(最近は寒くて欠かしまくってたけど………。)


だが、こればかりは仕方ない。遭遇するかどうかの殆どは運なのだ……試行回数を増やす以外に遭遇数を上げれることは無い。


(……とは言え、昨日出たばっかりだし……魔獣が出てくる事は考えられないかな……、まだ強盗とか殺人犯とかの方が出てきそうだな。)


そんな事を考えていた時………、


パンッ!!……と、高く乾いた音……そしてこもるに鳴る低音が遠くから聞こえた。


「……銃声……、一応行ってみるか。」


周囲を歩く人々は困惑し始め小走りでかけて行く。


昨日と今日とで大変だ、だが魔獣が発生した後は犯罪率が高くなりやすいらしいのでこういう事も有るだろう。


そう……順をおって考えればこの2つは並んで然るべきと言える。


魔獣が出れば当然、死人も財産の消失も出る……少し考えれば攻撃的になってしまう人が出るのも致し方ない。


(………ま、そうならない為に魔術士が居て……それが仕事になっているわけだけど。)


銃声……銃器が使用されている現場に魔術士が必要かどうかは疑問だが……それでも何かあったとゆう事を後から知らされるのは寝覚めが悪い。


どうせ時間も有るのだから……


そう思った俺は小走りで銃声のした方向へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



向かった場所はいかにも住宅地のど真ん中とゆう感じだった。


3階建て程の建物が狭い路地を挟んで立ち並ぶ為、朝日は出ているのに道は薄暗い。


ついさっき再び銃声が付近で鳴ったのだが、この立地による音の反響で正確な発音源が分からない。



「警察はまだ来てないのか?、通報した人が居てもいいと思うんだが。」


右肩に紐で吊るしていたクロスボウを反対側の肩に移し替える……長時間同じ肩で背負っているのはあまりよろしくない。

店を出てから多少は時間が立っている……日も出てきて新しく魔獣が発生する事はないだろうし……、単純に帰りたい。


「あとは警察に知らせて帰るか……。激しい銃撃戦でも無ければ目立った負傷者も見当たらないし。」



人助けをするつもりがない訳じゃないが、人には得手不得手が有る。


目の前にいる魔獣を倒すのが魔術士なら、隠れた犯罪者を探し出すのが警察だ。このままここにいても出来ることは無い。


そう思い、振り返って来た道を戻る。


狭く暗い道……この辺は来たこともないので細い道に入ってしまえばその時点で迷ってしまうだろう。


「うあっ!。」


「おっと……すみません。」


そんな事を考えながら脇道に視線を向けつつ歩いていると、正面の角から出てきたと思われる青年とぶつかった。


青年は道に落とした紙……新聞紙を集め、方からかけた布袋にもどしていく。


「申し訳ない、ここら辺には来た事がないので。」


「いえいえ!、角の先を確認せず飛び出した僕が悪いですから。」



何もせず見るのも悪い気がするので、そこまで量はないが落ちた新聞紙を手に取り青年に渡す。


恐らくは新聞の売り子だろう……先程まで配達をしていたか、或いは途中か。どちらにしても悪い事をしてしまった。


(……まてよ、この人はここら辺の住宅地を担当しているって事だよな?。)


早朝から新聞紙を持って住宅地に居るとゆうことは、恐らく新聞を定期的に届ける人がここに多いとゆう事………、


「君は朝から配達をしてたのかな?。」


「え?……そうですね、30分程前からこの地区のお客さんを回ってしまたね。」


やはりそうか……そして30分前なら恐らく、


「こんな物持ってるから察してるかもだけど……実は俺魔術士なんだ。さっきここら辺で銃声がしなかったか?。」


そう言って肩に下げているクロスボウと2つの指で嵌める大きめの指輪を見せる。


「えっ?魔術士さんなんですか?。魔術士さんってそういった武器を持つんですね……。ああ、そうでした………確かに銃声はしましたね、でも配り終える前に帰ると給料貰えないので……。」


そう言うと青年は困ったように笑う。


子供……とまでは行かなくともまだ親の助けくらいは欲しいであろう歳、丁度 エルと同じくらいだろうか?。


楽な暮らしを送っているのでは無いのだろう、


「出来れば銃声のした場所を詳しく教えてくれないか?。魔術士の仕事でも無いだろうけど、もしかしたらがあったら嫌だからさ。」



正直ピンポイントで場所聞き出せるとは思えないが、この場所の土地勘すら無い俺に比べれば遥に頼りになるだろう。


俺が聞くと青年は少し考える素振りを見せてから答えた。


「…………わかりました。配達はそこまで急いで無いのでさっき音がした場所まで案内します。」


「案内?……別に場所だけ教えてくれれば良いんだぞ?。」



一般人は銃声のした場所になんて行きたくないだろう。


それに、急いでないとは言えまだ配達の途中に見える………。本当に良いのだろうか。


「……この道真っ直ぐいくつもりだったんですよね?。この先は行き止まり何ですよ?。」


「……え?、そうなのか?。」


周りを背の高い家屋が囲んでいて、先を見渡せないのは確かだがまさか1番広い道が行き止まりなんて。



「……ね?、案内が必要でしょ?。自分も1人でこの近辺を回るより魔術士さんと一緒の方が安心ですから。じゃあ行きましょう、こっちです。」



一息に喋り追えると青年は来た道へ引き返す。


なにか起きるかもしれないと考えると1人で動く方が都合が良いのだが………、青年の言う通り1人じゃ音の発音源どころか帰り道を見つけることすら危うい。


仕方ない……、自分にそう言い聞かせてから青年の後を追い掛ける……。

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