第4話 魔術ノ父
明けの帳と小さく書かれたドアを開く。
カランカランと来客を告げる鈴を鳴らしながら開いたドアの先…。カーラが切り盛りするこの店は今朝も変わらず静かだ。
「よぉカーラ。」
「おはようディノ。」
落ち着いた黒髪の落ち着いた雰囲気の女……カーラがいつも通りカウンターで何かしらを作っている。
カーラとは幼なじみで、中々童心が抜け切れてないらしい俺からすればカーラはまだ『女の子』や『少女』なのだが……カーラはそう思われるのを嫌っている。
…とは言え今更『女性』と思う事も中々出来ない。
……そんなどうでもいい事で僅かに頭を悩ました時、昨日までとは違う要素がドアを開いて現れた。
「おはようございます……っあ、もしかしてお待たせしてしまいましたか?。」
「んな訳あるか、いつも来るのはこの時間だよ。」
美しい金髪と美麗な顔と白い肌……誰が見ても可愛らしいと思える少女……エルメアが店に入ってきた。
エルメアはそのまま俺の座ったカウンター席の隣に座って来た……別に好きな所に座ればいいのに。
「カーラ、ミルクティーといつもので。」
「なんでトーストセットはいつものって言うのにミルクティーだけは毎回しっかり言うのよ。」
だから言わないとコーヒーを出すからだろ………。
しかし、本人にそんな事言えるはずも無いので静かに笑って誤魔化す。
「あ、あのぉ……。私も同じ物を注文してもよろしいですか?。」
「ん?……あぁ、もちろん。そんなに気を使わなくても良いからね。」
俺とエルメアの注文を受け、サラダやベーコン……トーストにミルクティーの準備を始めるカーラ。
いつもより……ほんの少しだけ賑やかな音が響く。
「……ありがとうございます、ディノさん。」
「ありがとうも何も……俺はあくまで最低限しか教えるつもりは無いからな……、とゆうか教えれる事がそれしかない。」
「ディノさんは凄い人です。私がそう思ってお声がけさせて頂いたのですから……何を言われても気にしません。」
本気でそう思っているのなら仕方ないと小さくため息をつく。
別に俺である必要は無いし、俺が師として理想的な魔術士かと言われれば答えはNoだ。
それでも……引き受けてしまったものは仕方ない。エルメアがいいと言っているのに今更考え直したいとは言えない。
「まあ、エルメアがどうなろうと俺には関係無しな。……あと、俺の言うことはしっかり守れよ?。」
「もちろんです!。……あ、エルメアと呼ぶのは長いですよね?、短くエルと呼んで頂いて構いませんよ!!。」
エル……エル……、確かに呼びやすい。
「じゃあエルで。カーラ、他の客が入ってくるまでここ使っていいか?。」
そう言って、カウンターの上に俺が借りている狭い一室から持ってきた何冊かの本を置く。
肌寒いこの時期に外で教えると言うのは避けたい。
そうなると落ち着けてそれなりのスペースもあるここでエルの相手をするのが1番良い。
「静かにするならお客さんが入ってきても別にいいよ。……でも物壊すような事は中でやらないでね。」
「しないよ、俺だってこの店は気に入ってるんだから。」
カーラは特に嫌がりもせずに店を使う事を許可してくれた。正直ここで断られていたらどうしようかと思っていたので一安心だ。
丁度そのタイミングで俺とエルのトーストセットとミルクティーをカーラが出してくれた。
甘い香りと美味しそうな香りが広がり、忘れていた空腹感が一気に押し寄せてくる。
それはエルも同じ様で、その視線はすっかり朝食に向いていた。
「……よし、取り敢えず食べるか。食べ終えてから始めよう。」
「はい!!、……頂きます!!。」
「ミルクティーはまだ熱いから気を付けてね。」
カーラもいつの間にか自分のコーヒーを淹れていた様で、俺達3人は一緒に朝の時間を過ごす事になった。
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今から100年程前、アウリエル・オプスカイエルとゆう『魔法使い』が居た。
大気を満たし、生物に溜まり、感覚に反応するエネルギー……『魔力』を扱う人間の事を、当時は『魔法使い』と呼んでいた。
だが、初めての『魔術使い』……要するに『魔術士』がこの時生まれた……そう、このアウリエルとゆう魔法使いだ。
魔力について解明出来たと呼べるようなことは微塵もない。だが魔力に干渉できる人間が緻密なイメージを持つと、魔力はそれを再現するとゆう事を魔法使い達は理解していた。
だから魔法使い達は自分の思い描いたイメージを鮮明に思い描ける事と、そのイメージを文と紐付ける事で魔法を行使していた。
アウリエルが魔術士と呼ばれる所以はここにあり、彼はその難解で人によって果てしないバラツキがある魔法を統一された『術式』によって行使出来るようにしたのだ。
………………
「ってゆうのは流石に知ってるよな?。」
「はい!、直接術式との関係は無いですが……魔術の父たる重要なお方なので。」
エルは魔術を習う学院に通っていた……とゆうか現在魔術士をやってる者は皆そうだ。
魔術学院は、一般でいう高等学校に通う3年間で通う。前述した通りイメージの鮮明さが術式に影響を及ぼすので、ある程度の読解力や事象を理解する理解力が必要な為だ。
「そうだな、アウリエルは魔術士の祖だ。学院で習う魔術を簡単に言うなら、アウリエルが考案した術式をこの出力補助器の補助を受けて使用する……って感じだな。」
そう言って俺とエル……とゆうより魔術士は全員身につけている二指で嵌める大型の指輪を見る。
魔術はイメージが必要……例えば電気を発生させる術式の場合、雷をまじかで見たものと見てない者……電気とは何かを知る者と知らない者では効果に差が出てくる。
その差を埋める為の装備がこの出力補助器だ。
この指輪は登録者の声で反応し、式番と有効譜を認識すると嵌められた魔石に刻まれてるアーカイブから魔術のイメージを投影する……誰でも簡単魔術発動マシンだ。
もちろんそうは言ってもアクセスの難度や魔術士本人の魔力量など一筋縄には行かないので学院が有るのだが……少なくとも『魔法使い』の時代に比べれば幾分か楽になっだろう。
「つまりだ、これ(出力補助器)に全依存の魔術は軒並み同じくらい威力・出力・効力なんだ。………じゃあ周りの同級生達よりも同じ術式で強い魔術を使うにはどうすればいいと思う?。」
流れるようにエルに質問を投げ掛けてみる。
指導はかなり一方的な会話になりやすい。だからこそこうして話す手番をちゃんと用意してやる事が大事なのだ。
「…そうですねぇ。使用者の魔力量や魔力出力量、補助器自体の性能を上げる………後は『他の人よりも術式の理解を深める』とかですかね?。」
俺が伝えたい事を最後に強調して言ってくるエル。
見た目がお嬢様とゆうだけあって、中々指導者受けの良い優等生だったのだろう。
「そうだな、もう分かっている様だが今からやるのはその『理解』を深める勉強だ。」
そう言って持ってきた本の中の1つをエルに渡す。
汚れてはいるが、見ただけで希少なものだと分かるほど丁寧な作りの背表紙をめくったエルは、1ページ目のタイトルを見る。
「『治癒活性術、身体補填術の統合知識』……医学書ですか?。」
そう言って本をパラパラとめくり、人体の図や薬の名称等が示されている中身を確認する。
「まあ、そうだな…。書かれてあることの半分は医学についてだからそう捉えても問題は無い。」
だがこれは列記とした『魔導書』……、それを示す為に項から目的のページを探し出し開く。
「お前は人を助ける魔術士になりたいんだろ?。だったらここら辺は抑えておくべきだな。」
「これは………応急処置ですか?。」
そのページには比較的安易に負う負傷に付いての解説が乗っている。
術式による軽微な負傷の治癒は地味だが使う場面は多い。また、取り敢えず魔力を全開で発動させればいいとゆう術式でもないので魔術士の強さの根底である『知識と技術』を磨くのに適している。
「魔術ってのはここに書いてある内容を魔力を消費する事で現実化・実行化させてるんだ。例えば裂傷……切り傷の場合は、患部の消毒・患部の保護・欠損組織の再生が大まかなプロセスだ。魔術だとこの患部の保護と欠損組織の再生が高速で行える、その反面患部の消毒が甘いから術式のミスは大体この部分になる。」
裂傷を魔術で治癒した際の失敗例に患部の腐敗がある。
これは滅多に起こるものでは無いが起きた場合は腐敗部位を除去してから再び治癒術式をかける必要が有る。
この理由が患部の消毒不足だ。
魔術は完治までのサイクルを高速化させている都合上、患部に大量の疾病要因が残留していた場合……本人の免疫力が負ける状況ならそのまま疾病……炎症や他臓器の疾患、最悪の場合として患部の腐敗が起きる。
対処法は実に簡単で、術式前に患部を消毒するだけだ。
「でも、術式の使用法と用途……それと練習を中心に行う学院を出たばかりだと術式1つで完結していると思いがちだからな。律儀に消毒液やガーゼを持ち歩く奴なんて居ないだろ。」
「……確かにそうですね。一応患部の洗浄はするように言われましたが、染みるのを嫌って皆適当に済ましていましたね。腐敗まで行かなくとも治癒術式を受けた生徒が体調を崩す事も良くありました。」
やはりエルは中々に聡いようで、簡単な説明だけでスルスルと内容を理解していっている。
「これが事象の理解が術式の効果を上げるの例だな。もちろん単純に術式の効果が上がるものも多いが、治癒術式においては失敗が減るって具合だな。……とゆうことで最初はこの応急処置と疾病・負傷の一覧と詳細、人体についての基礎知識を頭に入れる事からだ。分かったか?。」
「はい!分かりました…………ってもしかしてそれ…」
エルはページをペラペラとめくりながら返答を詰まらせる。
ページを捲ればめくるほどに顔から笑みが消えていく。
「……もしかして今言ったことだけでも25ページくらい有りますか?。頭に入れるって目を通すんじゃなくて覚えろって事ですよね?。」
確認し終えるとエルは真顔で聞いてきた。
本当にやるのかと……そう言う目をしている。
「いや、実際は図解が3ページ分くらいあると思うから実質22ページだな。分かったら早く始めろよ、時間が足りなくなるぞ。」
「…………はい。」
何故だか話を始めた時よりも明らかにエルの元気が無くなっているが……まあ、問題は無いだろう。
(さてと………、それじゃあ俺はいつも通り小銭でも稼いでこようかな。)
昨日の討伐報酬で懐は暖かいが、サボれるほどでは無い。
本人は気にしてないと言っていたが、正直カーラの世話になっていると呼ばれるに大差ない。魔術士として生きていくなら暇な時間は少しも無いのだ。
「………あれ?。ディノさん……この部分が読めないのですが……。これ標準語ですよね?。」
エルはそう言って目次の部分の最後の方に指を刺している。
「ああ、『今』はそれでいいよ。取り敢えずは読める所から読み進めていってくれ。」
「え?………分かりました。」
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