第3話 依リ依ラレ
「お嬢様から………離れろ!!!。」
魔獣を見つけた時、その場所は割と修羅場になっていた。
恐らく魔術士と思われる少女が今まさに生死の境目で、
それを救うおうと一般人が魔獣に向かって石を投げようとしている。
「おいアンタ、その石寄越せよ。」
「んな?!」
めちゃくちゃな大振りで石を投げようとしているその女性の手首を握り、静止させる。
一般人の投石が、有象無象のカス共ならともかく………あのサイズの魔獣に効果があるはずがない。
「は、離してください!!、私にはお嬢様を助ける義務が有るのです!!。」
「じゃあその石よこせよ。どうせ当たっても意味無いんだから。」
「意味なら有ります!!、私が奴の気を引ければお嬢様は………」
「だから意味無いって。気は引けるだろうがお前が死ぬのはあそこのガキが死んでからなんだよ。」
興奮状態なのか、全く話しを聞いて貰えない。
こうなってしまえば………仕方ない。
彼女の手首を握る手に、徐々に力を込めていく。
「い、痛い!!………早く離してください!!。」
これでもダメか……なら仕方ない。
「良いか?、俺は他人にそこまで興味は無いが……救える奴は救う。見知らぬガキの『命の為』なら……見知らぬ他人の『手首くらい』厭わ無いからな。」
「え………冗談……ですよね?。」
事態は急を要していた。
この女は半ば錯乱状態だが……偶然にも良い石を拾っていたのだ。
手首を抑えていた左手により一層力を込め、右手で彼女の指先を握り……勢い良く『引っ張る』。
コキン………そう子気味のいい音が鳴ると共に僅かに彼女の手首が『伸び』、石を落とす。
「あ……ぁぁぁぁあ!!!!!。」
「うるさいな、軽い脱臼だろ。後で治すから。」
とはいえ日頃から脱臼を経験するような一般人も居ないだろうが、そう思うと彼女のこの様子は正しいといえば正しい。
だが馬鹿みたいに喚いて事態を悪化させるだけなら本当に迷惑だ。
「
術式を唱えると、すぐ手前に黄色の円陣が発生する。
そしてベースボールのピッチャーの様に、今し方奪った石を握って構える。
そこまで歪な形を しておらず、重心もほぼ中心に有り、瓦礫くず等では無い純粋かつ硬質な石ころ……。
『投げて』……『当てる』には最適だ。
勢い良く投げ放った石ころは、その直後に方陣を通過………
すると石ころは鈍い衝撃音を発生させながら目では捉えられない速度にまで『加速』した。
そして『命中』。
見事頭部に石ころが命中した魔獣、
あまりの衝撃に肉片が舞い、片方の眼球が押し出され外に飛び出した。
魔獣はそのまま大きく姿勢を崩す。
だが恐らくまだ死なない………魔獣とは本来タフなものだが……このサイズにもなるとタフの一言では済まない耐久力を持っている。
足元に置いていたクロスボウを手に取り、一気に距離を詰める。
予め弦を引いておいたこれには普通の矢ではなく、先端が鋭利にとがった細い鉄製の棒がセットしてある。
普通の矢は羽などを付けることで飛翔の安定性を確保するが……これには付いていない。
その為少し飛ばせば大きく傾いたり、最悪横転した矢の棒の部分で当たってしまう為、有効な射程距離はかなり短い。
………しかし、距離を詰め確実に当てることが出来れば……
停止した魔獣を観察する。
この魔獣は熊に近い容姿をしているだけあって、全身が肉厚……その頑丈な作りは恐らく頭部も同じだろう。
事実、質量の有る石をあの速度でぶつけたにもかかわらず2足で立っている。
頭骨を粉砕し、中身を微量だとしても撒き……眼球が飛び出したにも関わらずだ。
だからこそ確実に仕留める。動きが止まっているからと言って二度と動かない証明は無い………確実に葬る。
「
魔獣の側まで距離を詰め、上に跳躍する。
その際に先程石ころを強烈な砲弾に変えた加速の術式を発動させ、それによる加速で一気に魔獣の頭部まで跳躍し、クロスボウの照準を先程頭骨を砕いた位置に合わせる。
「
更に矢の先端に術式を発動させる。
鈍重な打撃は、より硬質な物に亀裂を入れるには適しているが柔軟な物に致命傷を与えるのは少し困難になる。
逆に鋭利な物は柔らかい物を容易く切断・貫通するが、相手の方が多少でも硬度が高いといくら力を込めようが弾かれてしまう。
全ての生物の弱点である頭部だが……この魔獣に関して言うと、分厚く硬い頭骨に大量の脳と『中心部』を攻撃するのは少々骨な相手だ。
「だが………中身を晒してるなら話は別だ。」
トリガーを引き、限界まで引き伸ばされた弦に溜まったエネルギーが解放される。
一気に百キロ以上まで加速した矢が方陣をくぐることで更に加速……
質量・速度……共に文句無しの強烈な矢は魔獣の頭骨の隙間から侵入し、そのまま魔獣の脳を貫通、反対側から半分出る形で止まった。
脳の中心部の完全な破壊、
強烈な衝撃と脳の損傷により、動きを止めていた魔獣だが……これにより全身がだらりと脱力……そのまま前のめりに倒れた。
この巨体は倒れるだけでもそこそこの迫力で軽く路地が揺れる。
……………
「よし、取り敢えずオッケーだな。」
………………
「………あ、あのぉ……出来れば助けて頂けませんか………。」
急に少女の声が倒したはずの魔獣から聞こえ身構える………、
(……あれ?、そう言えば魔術士の子供が既に戦ってたよな?。)
そう思いなおし、ちゃんと見てみると巨体の腕……その下から細い女性の腕が伸び、パタパタと暴れている……。
「た、助けて下さーい!………あ、あれ?。………もうあの人行っちゃったのかな?。………助けて下さーい!!!。」
………どうやら結構元気なようだ。
(……なら、悪化させても申し訳ないし。さっきの人の手首を治してからでいいか。)
基本的に人命優先で動く俺だが、さすがに自分で外したのが原因で手首が動かなくなったなんて話にはなって欲しくない。
恐らくろくに固定もして無いだろう……まあ、デタラメな位置で固定されていても困るが。
俺はそう思い、後方で痛みに耐えかねうずくまっている女性の元に歩き出した。
「………あ、れ?……。足音……離れてませんか?!。ちょっ、ちょっと待ってください!!………。助け……助けてくださァァい!!!。」
(押し潰されてあれだけ元気なんて……、随分フィジカルの強い術士だなぁ。)
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「久しぶりの儲けだ……これでまた暫くは何とかなる。」
そう1人でつぶやき、手に持つ封筒の中身を確認する。
中には一般的な労働者の2ヶ月分の額が書かれた小切手が入っている………つまりは今回の報酬だ。
魔獣討伐は、基本的には討伐した魔獣の体内に生成される結晶……『魔石』の鑑定額が支払われる。
サイズと重量、質で値段は決めらる。
今回の魔獣はサイズと重量は大きめだったのだが質が悪かった。
とゆうか良質な魔石を生み出す魔獣が出てこられたら……それはそれで対処出来ないのでこれでいいのだが。
そんなことを考えている内に明けの帳、カーラの店まで帰ってきた。
「ただいま〜っ……て、流石に客は来てないか。」
「そりゃあね……でも0人って訳でも無いよ……ほら。」
何だかんだ時刻は昼になっていたので、いつもなら客が結構居るのだが………近所でさっきの魔獣騒ぎがあったとなれば人入りは悪くなって当然だ。
だが、カーラが指さす方には確かに客が来ていた。
ソファに座っていて背を向けているが………、綺麗な金髪と背もたれに掛けられている白色のコートに見覚えがある……。
「……あっ、戻ってきたのですね!。先程はありがとうございました。」
俺が入ってきたことに気づき、こちらを向いた少女はすぐに立ち上がると頭を下げてきた。
「あ〜、あの時の魔術士か。あんな風に魔術士やってたら1ヶ月以内に死ぬぞ……身の丈にあったことをやれ。」
「ちょっとディノ……この子はお礼を言いに来ただけなんでしょ?。もうちょっと言葉を選んでさ、」
言葉を選んで……か。
「無理だな、解釈の余地がある様なヤワな言葉で今日みたいな事をもう一度されたら俺はその責任を負えない。弱い事は悪い事じゃないが……その事を理解もせず、克服もせず……手を引くこともせず失敗だけを繰り返すのを許す事は出来ない。」
今回は俺が居たが……次はどうだ?。
もしこいつが直接戦闘は無理でも、行動を阻害するような魔術で足止めをすれば?
予めより強力な魔術士との連絡手段を構築していれば?
今回はたまたま『殺されない』程度の戦力差、偶然『俺が来た』とゆう条件が揃っていたからこの程度で済んだのだ。
この失敗を二度と起こさせない用にするのが真に意味のあることなのだ。
「………申し訳ありませんでした………。」
………少女は思っていたよりも素直に謝辞を述べる。
「そうか、反省したか。じゃあこんな事は二度と起こらないんだな。所でお前はまだ師を見つける事すら出来てない新卒らしいな?……それで?、お世辞にも魔術士とは呼べないお前がこれからどうやって魔獣と戦う?。それとも潔く辞めるか?。」
………ここが正念場だ。
なぜなら都市においての魔獣被害は限定的、更には下等な魔獣なら魔術士ではなく軍が討伐してしまう。
そう……ここがまさに、
(………
正直に言おう、俺はここ1ヶ月以上無収入だった。
魔獣討伐は差こそあれど全体的に儲けがある……それでも多数の魔術士が奪い合えば必然的に生活費が足りなくなってしまう。
「正直言って迷惑なんだよ、大体……お前協会に登録した際の『師』の斡旋を『断ったら』らしいな?。その結果がこれ何じゃないのか?。」
あの後、協会の魔石鑑定官や警察の人達にこの少女に付いてすこし聞いた。
魔術士において『師』とは必要不可欠な存在だ。
魔術を教わる学院では……正しく魔術を教わるだけ……。
どこだってそうだろう。机の上で教科書を読み、ノートを取っていても………実際に働く時にそれが活かされることは限りなくすくない。
知識は有るだけでは無意味なのだ。だから魔術士としての真髄を教わる『師』が必要になってくる。
……だがこいつは、あろう事かその師の推薦を『断った』のだ。自分に師は要らないとも言える行為だ。
「お前のそのやる気の無さがお前の弱さの理由全てなんだよ。協会の案内を素直に聞いていれば俺が来なくてもお前だけで何とか出来てたんじゃないのかぁ?。」
…………小さく鼻をすする音がした。
グスグスと……少女から………。
(あっ………流石に言い過ぎだか?。)
……少女は下を向いていた……もう完璧に折れてしまったのかもしれない。
(………まあ、遅かれ早かれこうなっていただろう。むしろ命や体の1部を失う前で良かったかも………)
「………がいます………。」
「………ん?。」
少女はその顔をゆっくりと上げ、真っ直ぐこちらを見てきた。
いつもなら非常に整っているだろうその顔は……クシャクシャな泣き顔になってしまっているが……、それでもしっかりと俺の顔をその目は捉えていた。
「……それは違います。協会が付ける師を受け入れてしまっていたら……私はあの場所には居ません。」
「……どうしてそんな事が言える?。」
震える声……それでもなお少女は懸命に言葉を紡ぐ。
「今、協会の最も大きなクライアントは軍部です……。確かに師を付けてもらえれば私は強くなっていたでしょう……。ですがその力を振るう相手は魔獣では無く……、」
「……『人間』……ってか?。」
感情の起伏がピークに達していたのか、中々言葉を発せない少女の代わりに言いたい事を言ってやる。
「……はい。私の尊敬した人を助ける魔術士は………その人の仕事は次第に人を殺す仕事に変わっていき………最後は魔獣では無く、人の手によって死にました……。私はそうなりたく有りません……。」
……なるほど…。
ただの馬鹿でも……自信過剰な子供でもない事は分かった。
わざわざ礼を言いに来たり、聞いても無いのにそんな事を言ってくる所からして……次に言う言葉も。
「だから………クラスB
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