エピローグ
第28話 眠い月曜日
「どうした川崎、無茶苦茶眠そうだぞ」
「頼む寝かせてくれ」
それ以上返事する気力も無い。
「何かあったのでありんすか?」
「眠い」
内海も無視だ。
土曜の夜出かけて帰ってきたのは日曜日朝。
でも遙香に言った手前、気合いを入れて実家を掃除。
いいかげん体力と気力が切れて夕方6時には眠ったら、夜10時にボランティアの魔獣討伐依頼。
そんな訳で完全な寝不足という訳だ。
「きっとまた夜、魔獣をハントして荒稼ぎしたのでやんす。これは昼食のパンをおごってもらうべきだと思うのでやんす」
「うるさい」
確かに報奨金は出たが受け取るのは月末以降だ。
でも魔獣の件、そもそもあの組織が存続のために2つの世界を近づけたのが原因なんだよな。
なら組織が無くなったら魔獣も出なくなるのだろうか。
そして俺も魔法が使えなくなるのだろうか。
魔獣討伐は確かに面倒だが魔法を使えることそのものは割と便利だし楽しい。
遠くへ移動なんてのも出来るし夜に出歩くなんて事も出来る。
ちょっと疲れをとったりなんて魔法もおぼえた。
組織が無くなったから夜に出歩くなんて必要はなくなるかもしれない。
でも他の魔法はそこそこ便利だったりする。
たとえば今だってその気になれば眠気を覚ます魔法なんてのもある。
効果が切れた後が悲惨なので使いたくないだけだ。
寝なくても疲れていてもハッピーになる魔法すらある。
ヤバくて自分には使えないけれど。
とりあえず後で魔法が無くなるか等については緑先輩に聞いておこう。
まだ何やら内海や小川、更には森川さんや西場さんの声もしているようだ。
でも俺は気にしない。
気にしたら負けだ。
今は少しでも睡眠をとって回復すべき時だから。
だが期末テストが近いので授業を無視する訳にはいかない。
だからチャイムまでは……
そう思って、少し思い直して目を覚ます。
「お、川崎が起きた。クララが立った!」
内海の相手はせずスマホを取り出し、ニュースを検索。
目当てのニュースは出てこない。
流石にまだ早いのだろうか。
俺はそう思いつつ、今度こそチャイムまで寝るつもりで机に突っ伏した。
◇◇◇
放課後、準備室。
「どうした川崎、酷い顔だな。クマ出来ているぞ」
顔を出したとたん茜先輩に言われた。
そんな事、言われなくてもわかっている。
「寝不足ですよ。事もあろうに昨日夜も魔獣ボランティア出動したもので」
「大変だな、ボランティアも」
他人事のように茜先輩が言う。
「出てくる魔獣が強くなっていますからね。対応出来るボランティアが少なくなっているそうですよ」
茜先輩も本来は忙しくなる筈なのだ。
そうならないという事はつまり、茜先輩の出動は妨げられている訳である。
何らかの理由によって。
その辺はまあ既知の理由なので今更蒸し返すことはないけれど。
「ところで緑先輩は?」
部屋に姿が見えないので聞いてみる。
「今日はさっさと帰ったぞ。土日で魔法を使いすぎて疲れたそうだ」
「なら俺もさっさと帰って休む事にします」
「なら昇降口まで付き合おう」
茜先輩も立ち上がる。
歩きながら緑先輩にたずねる筈だった質問をしてみた。
「ところで組織が無くなるか弱体化したらこの異世界の記憶とかも無くなるんですよね。魔獣がでなくなったり魔法が使えなくなったりするんですか」
「魔獣は出なくなるらしいな。魔法も向こうの記憶に頼っていた連中は使えなくなるらしい」
茜先輩は何か微妙な言い方をする。
「どういう事ですか」
「こっち側の自分が経験したり学んだりして得た魔法は消えないという事だ。緑はそう言っていたな」
そういう事か。
「つまり俺が実際に使ったり、魔道書でおぼえた魔法はそのままですか」
「少しは弱体化するかもしれないがな。一応使えるらしい」
そうなのか。なら悪くないな。
「それで遙香や病院、組織の方はどうなんでしょうか」
実はこれこそが一番気になる事だったりする。
今のところ何も情報は入ってきていない。
スマホでニュース等を確認したりしたが組織関係やあの病院関係のニュースは入っていない。
無論ニュースには出ないところで動いてはいるのだろう。
だが気になる。
「心配はいらない。緑が言っていたからな。今日あたりそろそろ家の方に何か連絡がある筈だ」
おい待て茜先輩。
「それを早く言って下さい!」
俺は昇降口へ向かってダッシュする。
一刻も早く家に帰る為に。
靴に履き替え自転車置き場までダッシュし、自転車に乗って校門を出てノーブレーキで坂を下る。
流石に信号では止まるがそれ以外は車道を一気走りだ。
おそらく家までの最短時間を更新しただろう勢いで到着。
だが家に入る前に意識して深呼吸する。
落ち着け、まだ何かあるとは決まっていない。
慌てた様子なんて見せれば不審に思われるだろう。
だから意識していつも通りの速さで歩いて、努めていつも通りに玄関の扉を開け……開かない。
念の為チャイムを鳴らしても中の気配は無い。
俺が中3の時に母は仕事をやめて専業主婦になった。
だから普段なら母がいる筈なのだが。
鞄の奥底から家の鍵を取り出し、玄関を開ける。
誰の気配も無い。
鍵を閉めて靴を脱ぎ、居間へ。
テーブルの上に何か書き置きがある。
「急用で出かけます。遅くなったら適当に夕食を取るなり冷蔵庫の中のもので作るなりしていて下さい」
この急用とは遙香の事だろうか。
これだけでは何もわからない。
じりじりとしつつ、ただ俺は待つしか無い。
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