第26話 最後の敵
『弱い使い魔を大量に。移動できればいい。攻撃力いらない。可能?』
緑先輩から魔法でそんな問いかけ。
『可能です』
『なら頼む。10体以上。奴めがけて動くだけでいい』
緑先輩の意図はわからない。
でも何か敵を倒すために必要なのだろう。
「メジェド様0!」
このメジェド様0は魔導書ゴエティアの魔法を入手した後、使い魔召喚の練習用に作ったものだ。
魔法攻撃力を持たないただ動くだけのメジェド様。
これならあまり魔力を使わない。
これを一気に10体召喚する。
メジェド様0がゆっくりと敵の男へ向かっていく。
「
バン!
1体が爆発するようにして消滅。
パパパパパパン!
更に続いて消滅していく。
これが何か意味があるのだろうか。
わからない。
だがここは緑先輩を信じるしかない。
俺には取るべき手が他に無いから。
『あと10体』
「メジェド様0!」
再度10体召喚。
今度は少し場所を広げたので一気に消滅する事は無い。
でもやはり戦況に変化はないように感じる。
ただ救いは敵がこちらに攻撃をしかけてこない事だ。
最初に風魔法で飛ばされた以外、魔法による直接攻撃は無い。
今までの敵はどちらかというと攻撃的な敵が多かった。
だからこの姿勢は組織のものという訳ではない筈だ。
現にこの病院でも危険な方位術を使っていた。
となると、これは何かの意味がある筈だ。
残念ながら俺はまだその意味に気づけない。
でも緑先輩は気付いている可能性が高い。
そして茜先輩が見えないのもそれに関連しているとしたら……
『あと10体』
「メジェド様0!」
再度10体召喚。
明らかに敵も苛立ってきているのがわかる。
だが攻撃はしてこない。
そして……
メジェド様0の27体目が消滅した後、敵は後方へと下がった。
はじめて敵が見せた動きだ。
そして今度はサーベルを取り出しメジェド様0を攻撃する。
「
緑先輩が魔法を起動した。
俺の魔法でいうところの『吹雪』だ。
残ったメジェド様0もろとも敵の男は後方へ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「単に魔力に対して反対の魔法で相殺していただけ。だが今の使い魔大量攻撃で魔力が切れかけている。もはやただの雑魚」
「
男はよろよろと立ち上がる。
だがそこで残ったメジェド様0の2体に挟まれた。
動けない状態だ。
「春暁」
緑先輩が魔法を起動。
俺だと
あっさりと敵は倒れる。
「終わったか」
思わず俺がそう言った時だ。
「まだ」
緑先輩がそう短く告げる。
「どういう事だ」
「まだ終わっていない。不明」
どういう意味だ緑先輩!
そう思って俺は気付く。
そう言えば茜先輩がまだ見えない。
遥香の病室はもうそこなのに。
何が起こっているのだ。
メジェド様0が起き上がり動き出す。
既に敵は倒れているが、他に敵はいないなら動き出しはしない筈。
そういう事は……
『使徒ジュレミアを倒すとは』
声、いや音声ではない。
伝達魔法とも違う。
そもそも日本語ですらない。
これは意志というべきだろうか。
「何者?」
緑先輩でさえその正体を掴みかねているようだ。
『私は
何も無かった筈の場所に人影が突如現れる。
白い修道衣の上に白いマントを羽織った壮年の男だ。
気配を隠匿していたのとは明らかに違う感覚。
これは……
「思念体」
緑先輩が小さく呟く。
どういう事ですか、そう聞こうとした時だった。
『人の子よ、此処を去るがいい』
強烈な風が前方から襲ってきた。
咄嗟に風魔法で抵抗する。
でも明らかに俺より向こうの魔法の方が強力だ。
それでも何とか俺も緑先輩も耐えている。
風で前がよく見えない。
でもその中、まだ出したままのメジェド神0が動いているのが見えた。
ちょうどS501号室の扉の向かい方向へ。
男がいる方向とは微妙に違う。
どうも窓際に並んだ棚のうちひとつが目標のようだ。
あの棚には何があるのだろう。
そう思った時だ。
轟音とともにその棚が砕け散る。
更にそこから青白い高温の炎があがった。
『Oooo!』
敵が叫びながら消えていく。
強風が途絶えた。
「廊下に棚が並んでいるなんて病院にしては不自然だと思ったけれどな。まさかそこに隠されているとは思わなかった」
後ろから聞き覚えのある声。
「茜先輩」
いつのまにか俺達の背後に茜先輩が立っていた。
「悪い。私1人では抜けそうもないからさ、気配と姿を最大限に隠匿して背後から様子を伺わせてもらっていた」
「今のは何ですか」
「私もよくわからん。ただ孝昭の出した使い魔があの棚に反応していたからな。何かあると思って徹底的に叩いたらこうなった」
かつて棚だったものが崩れ落ちる。
中から棚部分とは違った色の灰と白い塊が出てきた。
「聖遺物」
緑先輩が呟くように言う。
「何だって」
「聖遺物。聖人の遺骸や遺物。これはかつて無実の罪で処刑されたある騎士団総長の遺骨。長年崇敬された事により力と意思を転写された。それが今の存在」
つまり人ではなかったという事か。
「まあいいさ。もう出ないんだろう」
「それは確か」
「なら問題無い」
茜先輩は頷いて、そして俺の方を見る。
「それじゃお姫様に面会と行こうじゃないか」
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