第4章 俺の目的の為に
第19話 思わぬ情報
「それでどうだったんですか」
月曜日、放課後の実験準備室Ⅰ。
いつもの席についてすぐ俺は先輩達に結果を尋ねる。
「上々だな。向こうの緑が閉じ込められている場所がわかった。それだけじゃない。孝昭が気になるような情報も手に入った」
「何ですかそれは」
「まあ順を追って説明しよう。まずは緑が閉じ込められている場所だ」
先輩は授業用に使用しているタブレット端末を取り出す。
ブラウザにして、ブックマークからWebページを開く。
地図が表示された。
中心にはかなり大きな建物が表示されている。
回りは緑で囲まれていて、何処なのかこれだけでは場所がわからない。
「この病院だ。これだけでは場所がわからないだろうから縮尺を変更すると」
そこまで山の中ではなかった。
端に出てきた駅名から判断すると……
「田間ニュータウンの外れの方ですか」
「ああ。外向きには精神科と老人対象の内科、リハビリ科が中心の病院だ。此処は*****系の経営で組織とも近いらしい。そこの隔離病棟に向こうの緑はいる」
隔離病棟か。
何か不穏な響きだ。
「そんな処に閉じ込めるなんて、向こうの緑先輩は大丈夫なんですか」
「身体的な事なら拘束されている以外の問題は無い筈だ。場所がわかったので早速緑の魔法で状況を把握させて貰った。緑は組織に協力するのを拒否して自分から意識を閉ざしている。組織も身体機能は維持できるよう、点滴だの電気刺激による運動だの必要な配慮はしているようだ」
その辺は心配ないと。
でもいる場所は病院か。
組織そのものではなくあくまで関連別組織の運営する、一般営業も一応していて、しかも向こうの世界にある。
「それでどうするんですか。俺にはちょっとこっちの世界からどうこうする方法が思いつかないんですが」
「それだけの情報ならな」
先輩はいつもの笑みを浮かべる。
「だがな孝昭。向こうの世界で対象1人が閉じ込められているなんて病院の場所が、こっちの世界の関係ない支部をガサっただけで何故わかったと思うんだ。その辺を考えたらわからないか?」
確かにそうだ。
そういう事は……
「同じように閉じ込められている人がその病院にいる」
「正解だ」
茜先輩だけでなく、緑先輩も頷く。
「こちらの病院にも1人。とんでもない魔法を習得すると予知された為連れ去られた女の子が隔離病棟で眠っている。つまり私達が狙うのは彼女を救い出す事だ。こっちで救出が成功した場合、向こうの世界とこっちの世界の
少し疑問を感じたので聞いてみる。
「でも元々のこの世界でも魔法を使える人がいるんですか? 向こうの世界の記憶が広がる前に」
「ごく少数だが以前から存在はしていたようだ。組織でそういった魔法を持つ者を拉致または洗脳して独占していたようだな。万が一組織に刃向かう場合は魔女認定して抹殺したりしてな。そうして魔法を独占する事で組織の力を保っていた訳さ。だが魔法が健在だった時代からかなり離れた今、組織内の魔法に関する知識は古くなり力が衰えてきてしまっている。故に魔法が健在な世界を引き寄せて知識を得ようとした訳だ。皮肉にもその結果、魔法使いが組織外に多数増えてしまった訳だがね」
そういう訳か。
「状況はわかりました。でも病院からただ連れ去るだけでは誘拐犯扱いになりませんか。場合によっては不法侵入とか暴行・傷害とかにも」
「その辺は上手くいきさえすれば緑の魔法で何とかするさ」
確かに言われてみればその通りだ。
今までもそうだったし。
「さて、ここで話は変わる。こちらの世界でその病院に閉じ込められている彼女。向こうの世界ではある学校に通っている。世界が近づいた事で彼女はこっちの世界の彼女が閉じ込められている事に気づいた訳だ。そこまではわかるな」
つまりこちらの世界の緑先輩と同じ事だな。
俺は頷く。
「それで彼女はその事を向こうの世界で通っている学校の先輩に相談した。彼女は同じ課外活動で知っていたからな。その先輩は表向きは一介の高校2年生相当の女子生徒。だが実は二つ名持ちの魔法使いだという事実を」
その先輩というのは向こうの世界の茜先輩の事だろう。
こっちの茜先輩は『暁の魔女』という二つ名持ちだ。
おそらく向こうの茜先輩もそうなのだろう。
「つまり向こうの世界とこっちの世界で似たような事が起きている訳ですね。取り戻す対象こそ違うけれども」
「そういう事だ」
「ならこっちの病院で眠っている1人は俺の知り合いですか」
話の内容からしてその可能性が極めて高い。
茜先輩と同じ課外活動とは間違いない。
向こうの俺も遙香も所属しているあの寮のある学校の、魔法研究会だ。
茜先輩は例のにやりとした笑みを浮かべる。
「さて、話はまた変わってこっちの世界だ。私はこの前襲撃した支部から様々な紙資料や電子資料をぶんどってきた。緑に頼んで私達に関係ある部分をざっと拾ってもらった結果、興味深い情報があった。
どうやらあそこの支部は5年前にある拉致事案に関与していたようだ。
ここまで聞けば俺もわかる。
「遙香ですか、その対象は」
茜先輩、そして緑先輩も頷いた。
「ああ、そういう事だ。過去を変える魔法は必要なかったようだな、どうやら」
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