第18話 襲撃の夜
夜11時30分過ぎ、現場から2キロほど離れたファミレスで相談中。
なお家の方は予定通り魔法で留守時の対策をしてきている。
移動も魔法で使い魔を召喚して無事待ち合わせ場所のここへ到着。
なお茜先輩と緑先輩は茜先輩のバイクでやってきた。
この方が魔法を使わないで済むという理由だそうだ。
現在はドリンクバーで頼んだそれぞれの飲み物を飲みながら最終打ち合わせ中。
「住み込みが1人と事務1人、警備2人。事務以外の3人は術者。うち警備1人は就寝中。いずれもこちらに気づいていない」
緑先輩の魔法でそのくらいはわかるようだ。
「外から緑が魔法で潰すのは可能か?」
「術者は無理。ある程度術を使わせた上での解析が必要」
そう言えば緑先輩、毎回俺達が戦っている時に何か魔法を使っていたよな。
あの手続きが今回も必要なのだろう。
「それじゃ結局、予定通りか。現場は住宅地だが大丈夫か、孝昭」
他に被害を出したくないという事だ。
「魔獣ではなく使い魔を使います」
「使い魔だとやられた時に孝昭が被害を受けないか?」
「俺が直接操作するタイプじゃなくて、命令を最初から与えて自律行動させるタイプです。先輩が学校で出した剣闘士と同じタイプですね。出してしまえば後は倒されようと何しようと問題無いですよ」
その辺は家で練習してきた。
この手の使い魔は形も能力もイメージと魔力次第で思いのままに出来る。
今回作ったのは眉と目だけが書かれた布をかぶり、布の下から足元だけが見えているという姿。
つまりはメジェド神様をパクらせて、いやインスパイアさせて貰った。
イメージが簡単だとその分魔力を使わないで済むからだ。
なお能力は目から熱線を出す攻撃と体当たり。
攻撃対象は敵組織の建造物とそこから出てきた人間。
歩く速度は普通の人がゆっくり歩く程度に設定した。
要は陽動になってくれればいい。
だからあまり強くは設定していない。
更に出してから20分で自動消滅するようにもした。
この仕様なら帰りの分の魔力を残しても50体以上は出す事が出来る。
予定では10体しか出さないつもりだけれど。
なお使い魔は他にも2体出す予定だ。
どちも姿は烏にした。
烏は本来夜に飛ばないが、黒い姿なので目立たないだろう。
今日みたいな雲がが多く星が見えない夜は特に。
1匹は現場近くまで使い魔発生用魔法陣を運ばせる役割。
もう1匹は対象上空を飛行させ、地上の様子を魔力で監視する役割だ。
これも基本的には自律タイプ。
いざという時は自動で俺とのリンクが切れるようになっている。
俺も被害を受けたりしたくないからその辺は安全対策という訳た。
「俺は使い魔を起動させたら脱出します」
「ああ。こっちも開始から10分以内で何とかする。あとは月曜日、学校でだな」
「それじゃ開始は今から20分後で」
ここで俺と先輩達は別れる。
俺はとりあえずあと10分はここで待機。
先輩達はある程度近づいたらバイクを止め、そこから歩いて接近予定だ。
気配を殺して移動するなら歩きの方がいいから。
俺はドリンクバーを飲みつつスマホで暇つぶしをしながら予定時間まで待機。
スマホの表示が10分前になった。
そろそろいいだろう。
俺は席をたって会計を済ませ外へ。
スマホで時計を見ながら歩いて近くの公園に入る。
人の気配は無い。
ここでいいだろう。
ポケットの中から魔法陣を書いた紙を出し、そのうち2枚を広げ魔力を通す。
ふっと白い紙が黒い鳥へと変わった。
次に残りの紙10枚に魔力を通し、片方の烏にくわえさせる。
これは烏が投下した後に発動するように仕掛けてある。
『行け!』
まずは紙をくわえた烏が、そしてもう1羽が飛び立った。
それぞれ離れて違うコースを現場近くへと向かう。
監視の烏は見つからないようやや離れて低い位置で。
紙をくわえた方は現場直近に到着した。
スマホの時刻表示が変わる。
『投下! そして離脱』
紙をくわえた烏は現場へと急降下し、上空2メートルで姿を消した。
くわえていた紙だけが上から落ちて、そして……
ドドドドドッ。
一気に10体の使い魔が出現した。
俺は近くの家の屋根、現場がぎりぎり見える場所に止まっている監視担当の烏を経由して現場の様子を伺う。
白い布をかぶった使い魔10体がそれぞれ目標建物へ突進そた。
ドン! ドン! ドン!
使い魔だけあって体当たりも人間より遙香に威力がある。
静かな住宅街に音が響き渡り、塀と壁にひびが入る。
更に熱線でシャッターが歪み、明かり取り窓が割れる。
中から1人扉を蹴破る勢いで飛び出して来た。
気づいたメジェド神もどきの1体が熱線攻撃をかける。
男は咄嗟に熱線を左に避けた。
続いて男がもう1人。
攻撃を受けていない建物裏手からも2人出てきている。
表に出た方が防衛担当で、こっちは逃走するのだろうか。
ただ今日は施設の中に4人いて、うち術者は3人。
だからこの2人のうち1人は術者の筈。
裏から出たうちの1人は何か鞄のようなものを下げている。
これは非常用の持ち出しセットか何かなのだろうか。
俺には判断は出来ない。
この辺は先輩達に任せるしか無い。
それにしても他人の建物を襲撃か。
これで俺も犯罪者だ。
もっとも良心は全く痛まない。
そもそもこの組織、既に俺達に魔物を差し向けたりしているのだ。
そして魔物を使用したこれらの犯罪を証拠化する能力は現在の日本警察には無い。
だから俺も同様に証拠化できない方法でやり返した。
それだけだ。
メジェド神もどきの1体が建物に突進しようとしたところで動きを止めた。
敵の術者に攻撃を受けたようだ。
だがこの使い魔、割と頑丈に作ってある。
しかも自律型で今は完全に俺のコントロールを離れている。
だからやられても俺に攻撃が伝わる事は無い。
強いて言えば監視用の烏は俺と視覚・聴覚がリンクしている。
俺が反応できない位素早く攻撃されれば俺にもダメージが来る可能性がある訳だ。
でもだからこそ見つからないようかなり離れた場所に止めた。
なおかついつでもリンクを切って自律型に出来るようにもした。
攻撃を受けると同時にリンクを着ればこっちのダメージも最小限で済む筈だ。
メジェド神もどきのうち1体が倒れて姿を消した。
残りはあと9体。
ただ付近は既にかなりの騒ぎになっている。
近隣の家からも人が出てきて、戦っている怪物を見て逃げ出したりしている。
パトカーのサイレン音も聞こえはじめた。
俺は時計を見る。
攻撃開始から6分経過。
もういいだろう。
俺は監視用の烏とのリンクを切った。
これくらいの距離でも魔力の動きそのものはある程度わかる。
だから騒ぎが終わっていない事は確認可能だ。
俺の役目はあくまで騒ぎを起こして隙を作る事。
今の様子なら使い魔が全部倒されるまでには5分以上かかるだろう。
つまり俺の役目は達成された訳だ。
無論先輩達は上手くやっているかは気にはなる。
でもそれで俺の存在を探知されてはたまらない。
俺は気配と魔力を隠匿したまま騒ぎと逆方向へ歩き始めた。
このまま歩けば突場エクスプレスの最終電車に間に合うだろう。
未来平まで乗って、そこから20分くらい歩いた後、使い魔を出して家まで帰るつもりだ。
それだけ用心すれば追跡される虞も無いだろう。
緑先輩も大丈夫だと言ってくれたし。
駅につく少し前に、スマホがSNSメッセージを受信した。
「任務無事完了。詳細は学校で」
先輩達も無事だったようだ。
俺は安心して、そして少し腹が減る。
今は終電ぎりぎりだから電車を降りた後にコンビニで何か買おう。
でも向こうの駅の近くにコンビニ、あるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます