第17話 今夜の目標
「でもどうやって取り戻すんですか。俺達は向こうの世界には行けないですし、そもそも組織そのものが世界的ですからこちらにいても俺達では届かない場所にいる可能性がありますよね」
「ああ」
先輩は頷く。
「だからこちらの私達では何も出来ない筈だった。だが組織が禁術を使った事で全てが変わったんだ」
そう言えば緑先輩が言っていたな。
組織が禁術を使った事がこの事態の始まりだと。
「緑の魔法で見る限り、世界はまだまだ近づく。私達がどちらの世界と意識せずに行き来する程にな。更に近づくと双方にかかる影響力も強くなる。つまりこっちの組織を叩けば向こうの世界の組織にもダメージを与える事が可能という訳だ。
この辺を上手く使えば組織が大きかろうと、向こうの世界の緑を救う事は出来るんじゃないかと私は思っている」
なるほど。
「ただ私や緑の目的と孝昭の目的は違う。孝昭はここにいない誰かを取り戻すのが目的の筈だ。だが魔法の知識と力が必要なのは私も孝昭も同じ。だからその辺でまだまだ共闘は出来ると思う」
妙に遠慮がちな言い方だなと思う。
「俺は別に構わないですよ。先輩達の事を手伝っても」
「そう言ってくれるとありがたいな」
先輩の口元が笑みを浮かべた。
「まあどっちにしろ当分の間は魔道書で力を得る作業になる。まだレメゲトンの残り4冊も残っているし、アルマデル奥義書もヒュグロマンテイアも場所は確認している。全部を確認できるかはわからないけれどさ」
何故全部を確認出来るかわからないのだろう。
「何か時間制限があるんですか」
「近づいた世界が再び遠ざかるまでだ。まだどれくらいの日数があるのかは緑もわからないそうだ。でも近づいたままという事は無い。いつか2つの世界はまた離れる。それまでの間にもう1人の緑を助ける必要がある訳だ」
確かにそう言われればそうだ。
「それならこれから次の魔道書を見に行った方がいいんじゃないですか?」
「魔道書を読んだ効果が出るまでには1日以上はかかるらしい。それに魔道書に対峙すると自分の魔力がかなり消費される。だから無理は禁物だ。どんなに急いでも2日に1冊程度にした方がいい」
「なら土日連続というのも駄目ですか」
「ああ」
だいたいこれで状況は把握出来たような気がする。
勿論まだ先輩達が何か俺に言っていない事はあるかもしれない。
でもそれはそれを言いたくなった時、言う機会が出来た時でいいだろう。
「解析は完了した」
「それじゃ離脱するか」
茜先輩が立ち上がる。
駅まであるく間。
「今夜、茜、時間ある?」
緑先輩がそんな事を尋ねる。
「別に用事は無い。何かあったか?」
「*****の裏組織の支部の場所がわかった。資料入手したい」
資料を入手するか。
敵対組織から資料を入手する方法となると……
「つまりは襲う訳ですか」
「そうなるな」
茜先輩は頷く。
「場所は?」
「突場市○○○○○○」
さっと茜先輩がスマホで検索する。
「突場か。それも結構遠いな。突場大に近い方だ」
かなり遠い。
「タクシーだと高いですよね。あと先輩の家、夜に外出して大丈夫なんですか」
「その辺は魔法で何とかなるだろう。緑、ちょうどいい魔法は無いか」
「ゴエティア、第3章第21節」
ゴエティアの第3章第21節というと……
確かに使い魔を自分の分身として使役する術が記されていた。
返答だけでなく見た目もそっくりに出来るようだ。
「よくそんなの、入手したばかりでわかりますね」
「これが私、厳密にはもう一人の緑の魔法」
うーむ。
「とすると後は交通機関だけですね」
「3人ではバイクも使えないしな」
「茜先輩、バイクの免許持っているんですか」
「普通二輪だけれどな。一応バイクも持っている」
確かに茜先輩なら似合いそうだなと思う。
「ゴエティア、第2章第27節。移動補助の使い魔」
緑先輩が言ってくれたのを検索する。
おっと、飛行して人を運んでくれる使い魔がいた。
「これを使えば何とかなりますね」
「なら作戦を練るか。駅近くに確かハンバーガー屋があったな。そこでいいか」
確かに今の図書館では話しにくい。
敵に見張られていた場所だし。
それにちょうど腹も減ったところだ。
小遣いが少々惜しいけれど。
「基本的には孝昭が召喚した魔物等で攻撃をしかけ、向こうが対処している間に私と緑で突入だな。もっとも夜間どれくらいの体制なのかとか、その辺は緑に聞かないとならないけれど」
「問題無い。おおよその情報は取得済み」
「さっきの男がその辺まで知っていたんですか」
「否」
緑先輩は首を横に振る。
「緑は関連する情報ならこの世界そのものから引っ張り出す事が出来る。何でもという訳にはいかないけれど。たとえば貸輪市に支部があると知らなければその情報を知る事ができないが、貸輪市の何処に支部があるかわかればその関連情報を一気に引っ張り出せる。その辺の条件は私も良くわからないがな、まだ」
「突場の支部とその防衛体制、存在する資料の題と所在場所、金庫の番号まではわかる。資料にこの世界の組織の、日本に置いて預言を取り扱う支部の場所が記されている事もわかる。でもそれ以上はわからない」
「だから今回は現場に行って資料そのものを持ってくる必要がある訳だ。そうすれば向こうの世界で緑が捕らえられている部署の、こっちの世界における場所や体制がわかる可能性が高い」
それにしても茜先輩、よく緑先輩の台詞だけで状況がわかるよなと思う。
その辺古い付き合いだからだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます