第11話 初夏の堤防で

「妙な連中がいるようだからな。さっさと次の魔道書を取りに行くことにしょう」

 そんな訳で今日は放課後、校門前で待ち合わせの上、目的地に直行予定。

 なお本日の目的地は照戸市照戸図書館。

 電車で10分、そこから歩いて20分という場所だ。


「時間を無駄にしたくないから急いで行くぞ」 

 そう言われたので6時限終了後、ダッシュで自転車置き場を経由して校門前へ。

 流石に早く来すぎたのか先輩達の姿は無い。

 まあ2年生の方が階が上の分少し遠いし、俺達の本日6時限は奈戸岡先生の古文だったから終わりが早かったんだよな。

 という訳で自転車を停め、その場で待つ事にしたのが失敗だった。


 門の前で待っているとダッシュで帰る生徒が通り過ぎていく。

 先輩はまだかと探す俺の視線が先輩とは別の知り合いを捕らえた。

 しまったと思った時にはもう遅い。


「どうしたのだ川崎、こんな処で何をしているなのだ」

 内海である。

 森川さん、西場さんも一緒だ。


「いや、ちょっと」

「ひょっとしてデートの待ち合わせでありんすか?」

「単にこの後図書館で調べ物をする為待ち合わせているだけだ」


「本当でありんすか? この後ホテルでもしけ込んでズッコンバッコンと大人の階段のぼる待ち合わせ……」

 バスン!

 内海が学生鞄で後頭部を殴られる。

 勿論相手は森川さんだ。


「内海、下品!」

「まあ大した事じゃ無いし、そっちはバスの時間もあるだろうから……」

 先に行けと言おうとした時、俺は最悪のタイミングというものを悟ってしまう。


「よう孝昭、待たせたな」

 茜先輩、緑先輩も一緒だ。


 内海はわざとらしく先輩達と森川さん達を見比べてこんな事を言う。

「川崎ばかり綺麗どころを独占、ずるいでござる」

「そっちだって森川さんも西場さんもいるだろ」

「量は同じでも質が違うでおじゃる。2人ともこっちと交換チェンジ希望なのでおじゃる」


 おいそれを聞こえる声量で言うか!

 そうなると……

 予想通り学生鞄の第二次攻撃が内海を襲う。

「なにがチェンジ希望だおまいは!」


「どうした、何かもめているが」

 茜先輩、明らかに何が起きているかわかっているだろう!

 でも面倒だし関わらない方が正解というのも確かだ。

 だから俺はここで心を鬼にしてこう言う事にした。


「何でもありません。それじゃ急ぎましょう」

「だな」

 内海達が目指すバス停と駅とは微妙に方向が異なる。

 なので内海を見捨てて俺達は駅へ。


 電車で2駅、照戸駅へ到着。

 だが改札口を出て少し歩いた処で緑先輩がぼそっとつぶやくように言う。

「捕捉された」

 どういう事だと俺は思う。


「相手は」

「この前と同じ」

「強さは」

「この前よりは」

「勝てるか」

「問題無い」

「倒して問題は」

「変わらない」

 茜先輩と緑先輩との間で小声でそんなやりとり。


「なら積極的に叩き潰させて貰おう」

 つまりこの前校庭で出たような魔獣と魔獣使いに襲われる訳か。

 でもまあ倒して問題もないようだしいいだろう。


 茜先輩程ではないにせよ、俺もあの宗教はあまり好きでは無い。

 ちょっと調べればわかるがあの宗教、西欧圏では主に国を支配する側に寄り沿うか下手すれば同一化し、それ以外の国では主に反政府側の活動をしていたりもするのだ。

 これは未開の地とされた場所へ宣教師を送り込むなんて歴史的な話では無い。

 現在の進行形の事案だったりする。

 現に日本でも割と半政府系のデモだのに参加していたりするし。


 勿論所属している全団体とか全構成員がそうだという訳では無い。

 あくまでそういう傾向があるという事で。

 なおこの辺はあくまで歴史を教科書通りに見た個人的意見だ。

 偉大な*****の教えが野蛮人を教化して人間にしてやったと思う人がいてもおかしくはない。

 個人的意見にとどめておいてくれればだが。


 俺達は茜先輩を先頭にやや寂れた商店街を通り抜け、川の堤防沿いに出る。

「こっちを通った方がいざという時に問題無いだろう」

 堤防の階段をのぼり街とは逆側へ。

 草地と砂利道で舗装はされていないけれどそこそこ歩きやすい。


「このまま10分も歩けば目的地なんだが、どうもそうはいかないようだな」

 茜先輩の台詞の意味は既に俺にもわかっている。

 20メートル程度先の場所で魔力が集中し始めているからだ。


「あくまで私達は被害者だ。敵が完全に出てきてからやるぞ」

 茜先輩はそんな事を言いつつも今までと変わらないペースで歩き続ける。

 自然俺達もそうなる。

 そして……


 魔力が集中した場所に1頭、黒羊より大型で体型的には細めの魔獣が出現した。

『種類、偽りの雄山羊(召喚種)。能力:突進、強風魔法。弱点:炎、電気』

 見かけと大きさ以外は前の黒羊と変わらないようだ。


「魔獣だな。街に出ると危険だから始末させてもらおうか」

 わざとらしく大きな声で言って、そして茜先輩は魔法を起動する。

 相変わらず起動動作が異様に早い。

 ドン、と黒山羊が倒れ煙を上げて消えていく。


「次からは孝昭、任せる。出た物を確認してから攻撃する事。私は防御と緑のサポートに専念する」

「わかりました」

 俺でもこの程度の魔獣・魔物なら問題無い。

 魔力の集中する場所を探し、判別魔法が魔物と判断した瞬間に電撃魔法を飛ばす。

 電撃魔法を使うのは、俺の魔法では最も速度が速いから。

 下が草地だから被害が炎の魔法よりも出にくい魔法、というのもある。

 確かに黒山羊、黒羊よりは若干耐久力がありそうだが大したことはない。

 このままならば。

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