第2章 次の魔道書と敵の存在

第9話 夜中の呼び出し

 明日は学校だという日曜日の深夜。

 ピポピポピポパポ、ピポピポピポパポ……

 うるさい、何なんだ。

 そう思ってふと目が覚める。

 スマホがなっている音だ、これは。

 眠い目でベッドの横に置いてあるスマホを探して手に取り通話状態に。


「はい、もしもし」

「夜分申し訳ありません。栃金崎とかねさき市役所、当直の海老名と申します。

川崎さんの携帯で宜しいでしょうか」

 このパターンはもう何度も遭遇済み。

 だから何が起きたかすぐにわかる。

 魔獣出現、討伐ボランティア呼び出しの電話だ。


「そうです。また出ましたか」

「はい、場所は馴鹿町2612、中央図書館の裏になります。牛サイズの魔物が3匹出た模様で、現在警察が監視しながら付近を警戒している状態です。今から10分でお迎えに上がりますので申し訳ありませんが宜しくお願い致します」


「わかりました。すぐ支度します」

 仕方ない。

 起きてさっさと服を着替えて髪の毛をブラシで整える。

 歯磨きとか細かいことをする時間は無い。


 着替えて部屋を出たところで父母の部屋のほうから声がかかる。

「また魔獣?」

「ああ。図書館あたりに小型3匹だってさ」

「気をつけてね」

「はいはい」

 最初は父母も心配したが最近は慣れてしまって部屋からも出てこない。

 気づいただけましというような状態だ。


 靴をはいて外へ出て、玄関の鍵を閉めたところで迎えの車がやってきた。

 迎えの車と言っても高級車とかそんなのではない。

 栃金崎とかねさき市役所と横に書かれた白色のライトバンだ。

 いつもの通り後ろの扉を開けて乗り込む。


「出ていただいて助かりました。今日は事案が多くて、もうこれで3箇所目ですよ」

「それはまた多いですね」

 1週間に2~3件というのがいつものペースだ。


「ええ、それで本日の3番優先だった川崎さんまでお願いする事になった訳で」

 特定の人間に負荷が集中しないよう、討伐ボランティアの出場順位は基本的には順番に回るようになっている。

 だから普通は1回討伐したら1週間から2週間は順番が回ってくる事は無い。

 でも確かに今回はこの前の水曜日に出たばかりだった。


「最近は多いのですか」

「今日が特別ですね、いや昨日も多かったかな」

 そんな話をしながら車は走る。


 5分ちょっとで現場の図書館付近に到着。

 既に警察車両が何台も来ていて規制線も張ってある。


「こちらです」

 警察の担当者とも何回か現場で出会って顔をおぼええられてしまった。

 でもそのせいでスムーズに案内される。

 警察の持つ拳銃では魔物や魔獣を倒す事が出来ない。

 なので魔物寄せと呼ばれる線香を被害が出にくいほうで焚いて誘導し、周辺を一般人が入らないよう固めるだけだ。


 攻撃手段が無いのにこういった仕事をやるのは大変だなと正直思う。

 実際、魔物寄せの線香が普及するまではかなり警察官の被害者も出たらしい。

 線香の一種が魔物を寄せて動かなくする効果がある事が偶然発見され、あっという間に全国警察に配布されて被害が一気に減ったそうだ。

 それでも大変な仕事であるのには変わりない。

 さっさと始末をして解放してやろう。


 魔物寄せ線香の甘い匂いがしはじめる。

 魔物は図書館の脇、文化会館に通じる通路に焚かれた線香に群れているようだ。

 数は聞いた通り3匹。

 他に魔物の反応は無い。


 いつもならそれだけ確認するのだが、今日は違った。

『種類、偽の屠られた黒羊(召喚種)。能力:突進、強風魔法。弱点:炎、電気』

 自動発動した魔法がそんな情報を俺に教えてくれる。

 あの魔道書に記されていて俺が入手した魔法のひとつ『判別』だ。


「どうやら相手は黒羊で、誰かに召喚されたようです。召喚種と魔法で種別が出てきます」

「そうなんですか」

 担当の刑事さん、明戸警部補さんがそう返答する。


「ええ。でもまずは片付けてしまいましょう」

 ちょうど試したい魔法がある。

 やはりあの魔道書から得た炎の上級魔法だ。


「獄炎竜巻、範囲限定、起動!」

 ボッと炎の渦が巻き起こる。

 黒い羊は3頭ともあっという間に渦に飲み込まれて消えていった。

 これで終わりだな。

 魔法を消去すると、まだ何か残っている気配がある。

 だが魔物ではないし、動き出す気配も無い。


「何か残留物があるようです。魔力が残っているので調べてみます」

「危険ではないですか」

「おそらく大丈夫です」

 今の獄炎竜巻魔法で熱せられた分を寒冷魔法で冷やしつつ近づく。

 幸い下はアスファルト舗装でなく石畳なので被害は無い。


 黒羊が群れていた場所に明らかに何か魔力的に反応するものがある。

 暗いがそれだけは魔法で何か光っているように見える。

 大きさは五百円玉くらいだろうか。


『六芒星を象ったメダイ。何らかの儀式に使用したもの。単体では特に危険は無い』

 判別魔法が教えてくれた。


「どうやら危険は無いようです。ただ何らかの儀式に使用したらしいメダルが3個、この先に置ちています。その辺の調査は警察でお願いします」

「それで他にわかる事はありますか?」

「俺にわかる事はその程度までのようです」

「了解です。ご協力ありがとうございました」

 あとは市役所の担当者が報告書を書いて、俺がそれにサインすれば終わりだ。


 しかし今回の件はいつもと少々違った。

 魔物も始めての種類だった。

 今までの魔物はゴブリンのようないかにも魔物という類いか、蛇とか養豚場のブタとか牧場の牛とか今までいた動物が魔物化したものがほとんどだ。

 でもこの辺で羊を飼っているという話は聞いた事が無い。

 それにそもそも召喚された可能性が高いなんてのははじめてだ。

 今まで判別魔法を持っていなかったから、本当にはじめてかは断言できないが。


 何かが起こり始めているのだろうか。

 ちょっと気になるが今は調べる方法は無い。

 ただ俺には少し不安が残った。

 今後何かあるような予感がした。

 あくまで俺の勘で、論理や魔法のような確かなものではないけれども。

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