6話
「下のお嬢さん……が塾で一緒の子に乱暴して。で訴えるの訴えないのって話になってるらしい、親同士で」
「ヒサシさ、守秘義務って知ってる?」
「ユキちゃん……なんと……俺は弁護士じゃないんですよね……!!!」
「弁護士事務所で私の代打してるんだから依頼人の情報漏らすのやめろっつってんの」
「でもユキちゃんに意地悪する石瀬さんだよ〜?」
「どうでもいい。関わり合いになりたくない」
数日後、ヒサシからドライブに誘われた。今日も雨だ。梅雨だ。
「どの程度の乱暴かにもよるけど、石瀬さんの証言はほら自分の子ども寄りだから、いまいち掴みきれんというか」
「引き受けるの? 代理人」
「鳴海くんはやる気ゼロ。稟ちゃんはなんか見たっぽい」
赤信号でクルマを停止させ、ヒサシは煙草に火を点ける。
「一本ちょうだい」
「禁煙したのでは」
「美晴がいるとこでは吸わないってだけ」
「では、どうぞ。これは韓国の煙草です」
「わあお。レア」
青い丸が印刷された箱から紙巻きを一本抜き取り、ヒサシのライターで火を点ける。さて、話の続きだ。
「見えた?」
「うむ。ユキちゃんも知っての通り俺の愛する兄は幽霊とか生き霊とか妖怪とか見えちゃう祓えちゃう系弁護士だかんね。石瀬さんが帰った後めちゃくちゃ塩を撒いていた、と鳴海くんから聞いた」
「それは私も聞いた。てか、石瀬を祓いたかったのかと」
「呼・び・捨・て! まいいや。なんかねー、ただの性格悪いヒューマンでは済まなさそうなのね」
「フーン……」
結構ほんとにどうでもいいなと思いつつ窓を薄く開けて煙を吐き出す。あの性格じゃあ色んな人から恨まれてるだろうし。誰かに本気で呪われてても不思議じゃない。
「稟市さんはそのなにかの正体調べて片付ける姿勢なの?」
「親はどうでもいいけど子どもが絡んでるのがちょっとねーみたいな」
「……」
稟市さんと鳴海さんはおもに『子ども』に関わる案件を扱うという方針で一緒に事務所を立ち上げた。もともと出身県が同じで仲が良かったというのもあるらしい。そして先ほどのヒサシの言葉通り稟市さんにはこの世のものではないものが見えるし、時と場合によってはお祓いをすることもあるのだが(稟市さんとヒサシはあの土地ではそれなりに有名な神社の息子だ)、子どもが関係しているか否かで態度をだいぶ変える向きがある。
「あ、ねえちょっと寄りたいとこあんだけど」
「どこー?」
「道の駅。ナビする」
「何買うの」
「野菜と、あとベーコンが美味いんだよね、あの駅」
「そういえば道の駅ってさ、線路もないのになんで駅って名乗ってんのかな?」
「知らない……」
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