5話

 夏の日。

 ライブハウス。

 私にジンジャーエールを差し出すスーツ姿の相澤鳴海。彼は私以外の若い客にも声をかけて回っており、つまりこのイベントはそういうものなのだと私は遅れ馳せながら気付いた。行き場や居場所のない子どもに手を伸べる会。だからわざわざデイイベント。


 当時の彼は法科大学院の学生だった。もちろん県外の学校である。この村がある県にも大学はあるが、こんなイベントを企画するような学生が存在するとは思えなかった。イベントそのものを主催しているのはライブハウスの店長だが、関わっている人間には現役の弁護士や大学の教授もいるのだという。何か困っていることがあったら言ってね、と相澤鳴海は微笑んで、これ俺の先生の名刺だけど俺の電話番号も書いとくから……と小さな紙切れを差し出してきた。


 私は、まだ私より背が高かった彼の手首を掴んで、たしかこう言った。私、お父さんとセックスしてます、と。

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