第59話 その5

「あくまでも仮説としてだがな」


究が話し始めたので、みんなが黙って聞く姿勢になる。


「みんなの話と僕がまとめたデータから推測すると、そのエンピツモドキというのは、人の心を操るのに距離と相手の心が関係しているのだと思う」


「というと」


「データから推測すると、そのオーツチとかいう男子を中心に影響が拡がっていたと思う。だから2年3組を中心に隣と上下の教室に影響が大きかった。そう考えれば、廿日さんが被害にあったのも、そのせいかも知れないな」


 オーツチの影響で、1年男子がはっちゃんのスカートを下ろそうとしたのか。だったら人身御供をさせてちょっとだけ罪悪感があったけど、まったく無くなったな。


「相手の心ってのは?」


カトーちゃんが訊く。


「あげはが操られたり、されなかったりしたのは、オーツチの言い方のせいだと思う。なぜなら、操られる前に必ず[パンツを見せろ]と言ってただろ。あげはは、それはイヤなんだろう」


「当たり前じゃん」


「それをやるくらいなら、まだこっちの方がましだと頭の隅で考える。そこをつかれて操られたりしたんだろう」


言われてみればそうだ。アイツは二択させて、まだこっちの方がマシと考えさせていたのか。


「それじゃ、あげはだけが、ほぼ操られなかった理由は?」


「そんなもの簡単だよ。あげはが意地っ張りだからさ」


そう究が言った途端、全員が顔を見合わせたあと大爆笑された。誰よりも頑固モノであるコイツに、まさかそう思われているとは思わなかった。


 楽しい食事と昼休みも終わり、それぞれの教室に戻ると、日常が戻っていた。


 あと、2つ報告することがある。


 ひとつは生徒会への報告である。


 スカートめくりパンチラファイトの収束は、葵先生の話をそのまま使い、あたしが仕掛人を特定して懲らしめた事にした。


 副会長に、あなたらしい品の無いやり方ねと言われたのにムッとしたが、どうやらそれなりに認めてくれたらしい。やったね。


 もうひとつは、報酬の件である。


 タカコには焼きそばパンを、ビトーちゃんとムトーちゃんは思いつかないから、タカコと同じく焼きそばパンでいいという話になった。

そしてカトーちゃんである。カラダで返す予定だが、何をやらされるんだろう。


「そんなに怯えなくてもいいわよ。席が後ろだから、ちょうどいいわ。時々肩を揉んでね」


「そんなんでいいの」


「肩凝りやすいのよ。あげはに揉んでほしかったけど、遠慮してたの。これで頼めるようになったから安心だわ」


という訳で、時々肩を揉むコトになったのだ。


 美人の肩を揉めるのは役得ではなかろうか?

 まあ、カトーちゃんらしいなとは思った。

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