第58話 その4
わいわい言いながら食べ終わり、究が淹れた食後のコーヒーを飲みながら、はっちゃんにエンピツモドキの話をする。
当然、信じられないという顔をされるが、接客商売の娘のタチなのか、文芸部だから変わった話に慣れているからか否定せずに、そうなんですかぁと受け入れてくれた。
「究は信じられる?」
あたしが、ずっと黙ってコーヒーを淹れ続けてた究に話を振る。
「正直、信じられないな。人の心を操る道具なんてありえない」
このひと言でその場の空気が不穏になる。しまったな、余計なことを言っちゃったかな。
「でも」
究もコーヒーをひと口飲んだあと、言葉を続ける。
「あげはが嘘を言わないのを知っているから、信じられないけど信じるしかないな」
シューガール全員が、おおおぅと驚嘆する。
あたしも驚いた。こいつが事実確認せずに信じるなんて言うの、初めて聞いたかもしれない。
タカコとカトーちゃんが、ニヤニヤしてこっちを見ている。
やめんかこら、はっちゃんに悪いだろう、嫌われるじゃないか、誤解されるじゃないか。
「そういえばカトーちゃん、オーツチにあたしが操られそうになった時、余裕があったようにみえたけど、なにか勝算でもあったの」
カトーちゃんは少し考えてから、ああ あの時かと言ったあと、説明してくれた。
「べつにどうってコトないわよ。あげはならやれると思ってただけ」
それを聞いてあたしがきょとんとすると、さらに説明してくれた。
「あげははね、ワンオペで実力を発揮するタイプなのよ。ねえ、サトーちゃん」
タカコが頷きながら、言葉を続ける。
「あの時、あたしはクラスメイトが邪魔するのを止める役をするつもりだったの。オーツチはあげはに任せてね。ワンオペって、うちの業界でいうと、ひとり親方っていうのかな。誰かと足並み揃えるよりは、ひとりで段取りくんだ方が、実力を出せるタイプ」
そんな風に思われているとは知らなかった。
言われてみれば、そうかもしれない。家事なんかはひとりでやる方が性に合っている。
ああそうか、タカコがシューガールに入らないかって言わないのは、そう思っていたからなのか。
「なんか照れるな……」
照れて赤くなったあたしを、タカコとカトーちゃんがからかう。もう、恥ずかしいなぁ。
「もう話題変えよ。あの時さ、エンピツモドキで操られたり、できなかったりしたけど、何でだと思う」
無理矢理変えた感がありすぎて、話にのってくれない。なら爆弾投下だ。
あたしはその時の状況を、なるだけ細かく究に話した。
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