第53話 その4
生活指導室に入ると、あたしとオーツチは横並びにパイプ椅子に座り、事務机を挟んで向こうに葵先生が座る。
「で、何があったの?」
説明をどうするか考えあぐねていると、先にオーツチが口を開いた。
「紅が、僕の大事なモノを壊したので、それを咎めたら逆ギレされて、ズボンを脱がされました」
はあああ!!!
ブチ切れてぶん殴りかけたが、葵先生がそれを目で制して質問を続ける。
「大事なものというのは、何かしら」
それにはオーツチは答えられなかった。それはそうだろう、エンピツモドキとは何か? それは何をするものか? それで何をしたのか? 答えられる訳がない。
しかも証拠であるエンピツモドキも無いのだ。
「それはそのぅ」
「答えられないの」
「……」
ここからのさんごちゃん、いや葵先生の尋問は凄まじかった。
黙って横で聞いていたが、代わりにゴメンなさい悪かったです赦してくださいと、言いたくなるような勢いでオーツチを追及する。
「な、何でもないです。何も持ってきませんでした。紅はなにも壊していません」
ついに音を上げ、今度は葵先生に泣かされるオーツチ。
まさか叔母と姪に泣かされたとは、夢にも思わないだろうな。
「つまり、紅さんにズボンを脱がされたけど、それには特に理由は無いのね」
「……はい」
葵先生は席を立ち、腕組をしながらうろうろすると、ため息をした後、オーツチに向かって話す。
「分かりました。あなたはもう戻ってよろしい。紅さん、あなたはそれについてこれから厳重注意をします」
葵先生の言葉にあたしは慌てふためる。さっきと同じことを今度はあたしが受けるのー。
「そ、そんな」
「お黙りなさい」
ひっ、と思わず首をすくめる。昔、さんごちゃんの買ったばかりのクルマを傷つけた時を思い出した。
あの時と同じくらい恐い……。
さっきまで泣いていたオーツチは、あたしが怒られると分かったら、ざまあみろみたいな顔でニタニタする。調子のいいヤツめ。
席を立ちさっさと部屋を出ていくオーツチを背中で感じると、あたしは葵先生に話しかけようとしたが、それを自分の口に人差し指を立てて止めた。
「んんん」
咳払いをすると、扉の向こうで慌てて離れていく足音が聴こえた。どうやらオーツチが聞き耳を立てていたらしい。
「さて、これで大丈夫ね。あげは、いったい何があったの? さっきの大槌っていうコ、何を隠していたの?」
「それは、そのぅ」
「大丈夫よ、今は葵先生としてじゃなくて、さんごちゃんとして聞くから」
「なんでまた」
「あのコは嘘を言ってないのは判ったし、それでも言えないモノって何なのか興味があるからね、個人的好奇心。それと今後の事もあるから」
「今後の事?」
「そのうち分かるから、それは後で。さ、何があったか話して」
あたしは、信じられないと思うけどと前置きして、ここ数日の事と今日の昼休みに起きた事を話した。
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