第54話 その5
「にわかには信じられないわね」
意外にも、さんごちゃんの第一声はそれだった。
「さんごちゃん、信じてくれるの?」
「話の内容としては、とても信じられないわ。でもね」
髪を束ねた黒のシュシュを外しながら頭を掻くと、乱暴に椅子に座る。
「あげはが私にウソをつかないのも、知っているのよ。クルマ傷つけた時も、正直に言いに来たじゃない」
ああ、そうだっけ。
「とは言え、常識的に考えれば受け入れがたいわ。それにそのまま話しても誰も信じてくれないし、私にしたって半信半疑だもの」
「でも、本当の事なんだよ」
ムキになって反論しようとするあたしを、抑えてという感じで、手のひらを向けるさんごちゃん。
「わかっているわよ、たぶんそうなるんじゃないかと思って、公私の私の立場で訊いてるの」
その言葉でやっと納得した。真面目なさんごちゃんが、仕事中にプライベートを持ち込むなんて変だなと思ってたから。
そこまで考えて対応するなんて、やっぱり大人だな。
「とりあえず、先生方への説明は私に任せなさい。良いように言っておくわ。教室の事も多少騒ぎになるだろうけど、すぐに落ち着くと思うから大丈夫でしょう。あとは廿日さんへの説明だけど、これも私が応対するわ。それでいい?」
「お任せします。けど、どう言ったか後で教えてね」
「はいはい」
それじゃこれでお仕舞いねと言いながら、シュシュを着けてさんごちゃんから葵先生に戻ると、教室に戻るように言われる。
5時間目が終わるまであと10分か、もう少しここに居ていいか訊いたら、さっさと戻りなさいと怒られてしまった。
やっぱり葵先生は真面目で恐い……。
教室に戻ると全員から注目を浴びたが、無視して席に着く。
教科書を出そうとしたタイミングでチャイムが鳴り、授業が終わってしまった。
北方先生に呼ばれどうなったかを訊かれ、葵先生に怒られた(ウソではない)のと、あとは先生に訊いてくださいと言うと、わかったと言われ解放される。
席に戻る前にオーツチを見たが、もう関わりたくないという感じで机に突っ伏していたので、あたしも無視した。
「で、どうなっなの?」
席に戻ると、タカコとカトーちゃん、ビトーちゃんが待っていて訊いてきたので、ありのままを話す。
「ふーん、無かった事にしようとしているのね。というコトはオーツチにペナルティは無しというコトか」
カトーちゃんが面白くなさそうに言う。
「いちおう、葵先生に死ぬほど怒られているけどね」
「それはそれ。クラスメイトを操ったコトは済んでいないわ。ねえサトーちゃん」
その言葉にタカコは深く頷くと、カトーちゃんと怪しく笑い合うのだった。
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