第5話 見られたら負けのサバイバル

 理由は判ったが、それで世間が変わる訳ではない。

 男子はもちろん、女子にまで好奇の目で視られ、さすがのあたしも精神的にまいりはじめた。


 そんなある日、ウワサを確かめようとした勇気ある者、あたしにとっては蛮勇でしかないのだが、果敢にも我が乙女の花園を鑑賞しようとしたのだ。


 早い話がスカートをめくろうとしたのだが、黙ってやられるあたしではない。


むだむだむだむだむだむだむだむだぁぁぁ


 複数の蛮族の攻撃を、すべてかわして花園の秘密を守った。


 しかしおかげで逆に、ノーパンチャレンジに信憑性が増してきたのだった。


 毎回休憩中こうなると流石に疲れてくる。仕方がない、あそこに避難しよう。


「というわけで、しばらく休憩時間はここに避難させてね」


「別にかまわないが、邪魔はするなよ」


 ここの部屋には似つかわしくない、いい香りが部屋中に充満している。

 ここは化学室の予備室で、現在は化学部の部室でもある。


 でもって、あたしの目の前にいるのは、部長の青草究あおくさきわむ

 もうひとつの肩書きは、あたしの幼馴染みである。


 生物学的に天然のオスであるが、今のところいちばん安心できるヤツでもある。

 誤解しないでほしいが、究に恋愛感情も性的欲求も感じたことは無い。


 なにしろ草食男子を通り越して、植物といいたいくらい、性的欲求がこいつには無い。

 凝り性というべきか、何かにハマるとそれ以外に目が入らなくなる、変態なのだ。


 今現在、究がハマっているのはコーヒーで、豆の種類、焙煎の仕方、豆の轢き方、煮出し方、器との相性、それらをデータにとってまとめている。


 何番目かの試作コーヒーを飲みながら、あたしはとりとめもなく愚痴を言いはじめる。

 それがだんだん感情的になり、言葉も言い方も荒くなるが、究はまるで聴こえていないように、化学式をノートに書き続けている。


 相づちのひとつでも言えばいいのに、まったく無反応。だから究とは何も起きない、起こるわけ無いのだ。


 一人言みたいになってきたので、だんだん虚しくなり、勝手に自己完結して終わることにした。


「もういいのか」


 ノートから目を離さずに言う究に、お礼を言って教室に戻る。


「あんたも、たまには授業に出なよ」


「出席数はちゃんと把握している」


 変わらずノートから目を離さない幼馴染みに


やれやれやれやれやれやれやれやれだぜ


と、ため息がでた。


 それから何日かは、授業中だけは安心できる時間になった。タカコが反省したので、スカートを下げなくなったからだ。


 しかし、相変わらず休憩時間中は、蛮族との戦いが続いた。

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