第27話 一騎打ち
「エルサレム王国の騎士の方々に物申す!」
エルサレム王国騎士団全軍の前に、騎乗する馬の大きさに秘して幼すぎるとさえ思える一人の戦士が姿を現した。
長槍を手に颯爽と髪を風になびかせ、馬を自由自在に操るその姿は、敵味方誰の目にも美しいと映ったはずだ。
「私の名前は”マイ”。サラディーン軍の客将として仕える作戦参謀にして武術教官だ」
その響き渡る声に、絶望の淵に立たされていたエルサレム王国の騎士たちが何事かと皆注目した。
(女だ、女戦士だ!・・・・・・)
重包囲された騎士団の中から驚きの声が上がる。
「あの小娘~! 八つ裂きにしてくれるわ!」
国王の威厳をすでに失いつつあったギーが、歯ぎしりしながら今にも飛び出そうとしたが、側近のルノーがかろうじて押しとどめる。
「私の名においてここに一騎打ちを申し込む! われこそはと思われる勇士の方申し出でよ! もし一騎打ちにて私を負かせば、我が軍は即時この場から撤退、エルサレム王国軍の全ての兵士の生命と王国への帰還を保証する。いかがか?」
「わしが出る!」
「いけませぬ! 国王陛下! 御身に万が一のことがあってはなりませぬ」
「ぬう・・・・・・! ではどうしろというのだ、ルノー!」
「私めが参りまする」
「お主が?・・・・・・ あやつは、ああ見えてもわしを手球にとったほどの小娘だぞ?」
「私には影がおりまする故・・・・・・ご安心を」
傍らに控えるルノーの策略をエルサレム国王は瞬時に理解した。
「お主も小ずる賢いやつよ・・・・・・」
「お褒めの言葉と承ります」
「わかった、任す。ルノー、行って来い! やつを、あの小娘を八つ裂きにしてわしの前に引きずってこい」
「御意」
国王ギーとその側近ルノーは返答を待ち構える舞姫の前に馬を走らせた。
「わっぱ! 貴様の始末はわしが直々にと言いたいところだが、ここにいるおれの部下が相手をする」
「相手は誰でも構わん! どうせこの私に素っ裸で吊るされた”みすぼらしい”国王などいまさら相手にしたところでつまらん。せいぜい力自慢のまともな戦士であることを期待する!」
舞姫の言葉の意味を知るエルサレム軍兵士の中からも失笑の声が上がる。自宅の窓から吊るされた現国王の裸を直に観たものが一人二人ではなかったからだ。
「貴様など俺のこの手で#$%&)てやる・・・・・・覚悟しておけ! ルノー! 後は任せたぞ!」
「お任せあれ。万事抜かりはございませぬ」
ルノーが影と呼んだ私設暗殺団の三人は、一騎打ちの立会人として舞姫に接近。しかし、毒薬をもって戦闘力を低下させるその計画は結局失敗に終わり、三人はその場で首を刎ねられた。
そしてルノーと舞姫の馬上決戦は一撃で雌雄が決し、いともあっさりと舞姫の勝利が確定した。
ルノーという男・・・・・・策略謀略、卑劣な暴力のみでこの世界を生き抜いてきたおよそ戦士とか騎士という名ばかりの小太りの男が、正面から舞姫に向かって勝てる道理がない。舞姫の槍の殴打をまともに顔面に食らって落馬し、自らの鎧の重みでそのまま立ち上がれなくなってしまうという無様さ・・・・・・
馬上より叩き落されたルノーを左手で引きずったまま、舞姫はサラディーンの御前へと姿を現した。
「マイ、ごくろうだった」
鎧と武器を取り上げられ、サラディーンの前に跪かされたルノーは、にやけた表情をさらけ出す。
一騎打ちの勝利者を讃えんと、氷で満たされた杯を勝者へ渡そうとしたサラディーンの手元から杯を横から強奪し、その氷水を飲み干したルノーの首は即刻刎ねられた。
「おっちゃんの手をこんなヤツの血で汚すことはない。そんな価値もない」
自ら首を刎ねんと剣を手にしたサラディーンであったが、舞姫の一閃で恥知らずの首は宙を飛んだのだった。
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